身体的拘束等は、緊急やむを得ない場合を除いて禁止されています。「緊急やむを得ない場合」にあたるかどうかは、切迫性・非代替性・一時性の3要件をすべて満たすかで判断し、個人ではなく施設の委員会等で組織として決定します。拘束を行った場合は、態様・時間・心身の状況・緊急やむを得ない理由の4項目を記録に残す義務があります。
持ち帰るもの:3要件をその場で判定できるチェックシートと、記録に書く4項目の記入例
読了の目安:約10分
読まなくていい人:身体拘束適正化委員会がすでに定期的に開催されていて、判定の手順と記録の様式が施設内で統一されている方には、この記事は不要です。
先に確認する言葉
身体的拘束等 利用者の行動を制限する、ひも・ベルト・ミトン型の手袋・ベッド柵等を使った対応全般を指す言葉です。身体拘束、行動制限と呼ばれることもあります。
緊急やむを得ない場合 利用者本人または他の利用者の生命または身体を保護するために、切迫性・非代替性・一時性の3要件をすべて満たしたときに限られる、例外的な状況を指す言葉です。
身体拘束適正化委員会 身体的拘束等の適正化のための対策を検討する委員会のことです。介護保険施設では、この委員会の開催、指針の整備、研修の実施が義務付けられています。
この記事は、介護保険施設(特別養護老人ホーム等)の運営基準をもとに整理しています。3要件と記録の考え方が、特養以外のサービス種別にどこまで共通するかは、次の章で出典つきで説明します。
身体拘束はなぜ原則禁止なのか
指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準(平成11年3月31日厚生省令第39号)第11条第4項は、次のように定めています。
当該入所者又は他の入所者等の生命又は身体を保護するため緊急やむを得ない場合を除き、身体的拘束その他入所者の行動を制限する行為(以下「身体的拘束等」という。)を行ってはならない。
3要件の考え方は、特養だけのものではありません。短期入所生活介護や小規模多機能型居宅介護など、複数のサービス種別についても、同じ3要件で判断する運用が厚生労働省の事務連絡で確認されています(出典3)。原則は禁止であり、緊急やむを得ない場合だけが例外という構造を、まず押さえておきます。
「緊急やむを得ない場合」の3要件(その場で使える判定シート)
「緊急やむを得ない場合」にあたるかどうかは、次の3つの要件をすべて満たすかどうかで判断します。厚生労働省老健局高齢者支援課が令和7年1月20日付の事務連絡で示している定義は、次のとおりです。
| 要件 | 定義 | 確認する視点 |
|---|---|---|
| 切迫性 | 利用者本人又は他の利用者の生命又は身体が危険にさらされる可能性が著しく高いこと | 拘束をしなければ生命または身体に重大な危険が及ぶと、具体的に説明できるか |
| 非代替性 | 身体拘束その他の行動制限を行う以外に代替する介護方法がないこと | 見守りの増員、環境の調整、福祉用具の変更など、拘束以外の方法を検討し尽くしたか |
| 一時性 | 身体拘束その他の行動制限が一時的なものであること | 解除に向けた見通し(期間・条件)を決めているか |
3要件は「どれか1つ」ではなく「すべて」を満たす必要があります。切迫性が高くても、代替方法を検討していなければ非代替性を満たしません。
非代替性を検討するときの視点
非代替性を満たすには、拘束以外の方法を検討したうえで「それでも代替できなかった」と説明できる必要があります。検討の視点として、次のようなものがあります。
- 見守りの増員 その時間帯だけ他の職員の応援を頼めないか、居室配置を見守りやすい位置に変えられないか
- 環境の調整 ベッドの高さを下げる、床にマットを敷く、離床センサーやナースコールを使う
- 福祉用具の変更 立ち上がりにくい椅子や体に合った車いすに替える、車いすテーブルの要否を見直す
- 原因への対応 痛みや不快感、便意・尿意など、行動の背景にある要因を先に取り除けないか
検討した代替案とその結果は、そのまま記録の「緊急やむを得ない理由」の裏付けになります。「代替案を検討したが実施困難だった」で終わらせず、何を試して、どこが難しかったのかまで書いておくと、次にカンファレンスで見直すときの材料になります。
3要件の判断は、個人ではなく組織で行う
3要件を満たすかどうかの判断を、夜勤担当者など個人の裁量だけで決めることは想定されていません。身体拘束適正化委員会やケアカンファレンス等の場で、複数の職員が状況を確認したうえで組織として判断し、個別の対応方針として残します。
記入例 ◯月◯日◯時◯分。カンファレンス出席者:施設長、看護職員、介護職員◯名。対象:◯◯様。切迫性の確認内容:◯◯。非代替性の確認内容(検討した代替案):◯◯。一時性の確認内容(解除の見通し):◯◯。決定:◯◯(拘束の態様・時間帯)を◯月◯日まで実施し、状態を再評価する。
記録に書くべき4項目(そのまま使える記入例)
厚生省令第39号第11条第5項は、緊急やむを得ない場合に身体的拘束等を行うときの記録について、次のように定めています。
指定介護老人福祉施設は、前項の身体的拘束等を行う場合には、その態様及び時間、その際の入所者の心身の状況並びに緊急やむを得ない理由を記録しなければならない。
記録に書く項目は、次の4つです。
態様
どのような方法で行ったか。使用した用具や対応の具体的な内容を書きます。
時間
いつからいつまで行ったか。開始時刻・解除時刻、または実施期間を書きます。
心身の状況
拘束を行った時点の利用者の様子。行動・言動・バイタル等、記録者が確認した事実を書きます。
緊急やむを得ない理由
3要件のうち、どれをどう満たすと判断したかを書きます。
記入例 ◯月◯日◯時◯分〜◯時◯分。態様:ベッド柵で四方を囲み、離床を制限。心身の状況:立ち上がろうとする動作を繰り返し、直前に転倒歴あり。緊急やむを得ない理由:切迫性(転倒による受傷の危険性が高い)、非代替性(見守り増員・離床センサーを実施したが行動が止まらなかった)、一時性(◯月◯日のカンファレンスまでの一時的な対応と決定)。
この記録は2年間保存する義務があります(老企第43号)。
記録がないとどうなるか
3要件を満たしたことの記録が確認できない場合、施設系・居住系サービスでは身体拘束廃止未実施減算の対象になり得ます。令和7年1月20日付の事務連絡は、利用者に身体的拘束等を行っていない場合でも、委員会の開催、指針の整備、研修の実施のいずれかがなされていなければ減算の対象になるとしています。訪問系・通所系サービスに同様の減算はありませんが、3要件を満たした記録が確認できない場合は指導の対象になるとされています。
拘束をしていない月でも、委員会・指針・研修の3つがそろっているかどうかを、定期的に確認しておくとよいでしょう。
判断に迷いやすい行為の考え方
ベッド柵で体を囲む、ミトン型の手袋をつける、Y字型の拘束帯や車いすのベルトを使うといった、体の動きを外から制限する対応は、身体的拘束等にあたると考えて検討を始めるのが基本です。一方、離床センサーやセンサーマットのように、動きを検知して知らせるだけで体の動き自体を制限しない用具は、身体的拘束等には含まれないと考えられます。
個別の行為が身体的拘束等にあたるかどうかの最終的な判断は、各施設の身体拘束適正化委員会で行います。迷う対応が出たときは、その場の判断だけで終わらせず、委員会に持ち帰って確認する流れを、あらかじめ決めておくと動きやすくなります。
よくある質問
Q1. 身体拘束の3要件は、1つでも満たせば拘束してよいのですか?
いいえ。切迫性・非代替性・一時性の3つすべてを満たす必要があります。どれか1つでも欠けると、緊急やむを得ない場合には該当しません。
Q2. 3要件を満たすかどうかは、誰が判断するのですか?
夜勤担当者など個人の裁量で判断するのではなく、身体拘束適正化委員会やケアカンファレンス等の場で、複数の職員が確認したうえで組織として判断します。
Q3. 記録は具体的に何を書けばよいですか?
態様(どのような方法で行ったか)、時間(いつからいつまでか)、心身の状況(そのときの利用者の様子)、緊急やむを得ない理由(3要件をどう満たすと判断したか)の4項目です。
Q4. 記録は何年間保存すればよいですか?
2年間保存する義務があります。
Q5. 利用者に身体拘束をしていない月でも、何かする必要がありますか?
あります。委員会の開催、指針の整備、研修の実施の3つの措置が継続してなされているかどうかが確認されます。3つのいずれかが欠けていると、拘束をしていなくても身体拘束廃止未実施減算の対象になり得ます。
Q6. 離床センサーやセンサーマットも身体拘束にあたりますか?
動きを検知して知らせるだけで、利用者の体の動き自体を制限しない用具は、身体的拘束等には含まれないと考えられます。個別の判断は、施設の身体拘束適正化委員会で確認してください。
要点サマリー
- 身体的拘束等は、緊急やむを得ない場合を除いて禁止されている(省令第11条第4項)
- 「緊急やむを得ない場合」は切迫性・非代替性・一時性の3要件をすべて満たすときに限られる
- 3要件の判断は個人ではなく、委員会等の場で組織として行う
- 拘束を行った場合は、態様・時間・心身の状況・緊急やむを得ない理由の4項目を記録し、2年間保存する
- 記録や委員会・指針・研修が欠けていると、拘束の有無にかかわらず身体拘束廃止未実施減算の対象になり得る
出典
指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準(平成11年3月31日厚生省令第39号)第11条第4項・第5項/厚生労働省/2026年8月18日確認/https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=82999406&dataType=0&pageNo=1
指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準について(平成12年3月17日老企第43号)/厚生労働省老人保健福祉局企画課長通知/2026年8月18日確認/https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00ta4387&dataType=1&pageNo=1
高齢者虐待防止措置未実施減算、身体拘束廃止未実施減算の取扱いに係るQ&Aの周知について(令和7年1月20日事務連絡)/厚生労働省老健局高齢者支援課/2026年8月18日確認/https://www.wam.go.jp/gyoseiShiryou-files/documents/2025/0121100941183/ksvol.1345.pdf
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筆者について 現役の施設ケアマネジャー。特別養護老人ホームでの介護職を経て、施設ケアマネジャーとして勤務しています。身体拘束適正化委員会の運営にも携わってきました。3要件をひとつずつ確認していく作業は地味ですが、判断の根拠を自分の言葉で説明できる介護士は、現場でも信頼されやすいと感じています。制度の解釈は、厚生労働省の省令・通知の原本に当たって確認しています。