本文へ移動

物盗られ妄想で家族が疑われた時の説明5手順|文例12本

約11分で読めます2026-10-04 更新家族向け
この記事の要点

結論から書きます。物盗られ妄想に、本人への説明は効きません。説明すべき相手は本人ではなく、きょうだいなどの親族、ケアマネジャーや主治医、そして近所の3方向です。本人には説明ではなく、共感と「一緒に探す」で応じます。この記事では、言われた直後の5手順、相手別の文例12本、受診と相談の順番を、2026年10月4日時点の制度にそろえて並べます。

この記事の内容

結論: 説明する相手は本人ではなく親族・専門職・近所の3方向#

「財布がない。あんたが盗ったでしょう」。親からそう言われると、つい本人に説明したくなります。ここが分かれ道です。本人への説明は、本人の中で筋が通っている話を真正面から否定する形になりやすく、言い争いにつながることがあります。

やることは、説明の宛先を変えることです。本人には説明をせず、周りの人に説明をします。宛先を分けると、話す内容が自然に決まります。

相手渡すもの避ける言葉
本人共感と「一緒に探す」。説明はしない「盗ってない」「さっき置いたでしょう」
親族症状の仕組み、身近な人に向きやすいこと「母がおかしくなった」
専門職日付と回数、直前の出来事、体調と薬「とにかく何とかしてほしい」
近所先回りの予告と連絡先事後の長い言い訳
結論: 説明する相手は本人ではなく親族・専門職・近所の3方向
本人には説明せず親族・専門職・近所の3方向に説明を分ける図

なぜ本人への説明は通じないのか#

公的な案内では、認知症の症状は2つに分けて整理されています。脳の障害から直接起こる中核症状と、本人の性格・環境・体調・人間関係などがからみ合って生じる行動・心理症状(BPSD)です(さいたま市、2023年4月1日更新)。物盗られ妄想は後者に入ります。

本人の中では、順番がつながっています。大事な物をしまった記憶が消える。でも物は見つからない。だから誰かが持っていったはずだ。ここに「盗ってない」と事実だけを入れても、見つからない理由が説明できません。訂正は、本人にはうそをつかれた体験として残ります。

自治体の案内でも、対応は怒ったり否定したりせず、不安に耳を傾け、一緒に探して本人が見つけられるよう導く形が示されています(さいたま市)。個別のセリフを覚えるより、この順番を覚える方が早いです。

ここは間違えやすい

注意したいのは、訴えの裏に体の不調が隠れている場合です。国立長寿医療研究センターの病院レターでは、薬を使う前に、他に身体的な原因がないか、以前からの精神疾患はないか、服薬中の薬と関係ないかを確認する流れが示されています(2024年7月1日)。便秘、脱水、痛み、眠れていない、2か月以内に変わった薬。この5点を受診前に整理しておくと、短い診察時間の中身が変わると私は考えています。

「盗られた」と言われた直後の5手順#

  1. 最初の10秒は言い返さない。否定の言葉を1つも出さない
  2. 困っている内容にだけ共感を返す。盗ったかどうかの話には乗らない
  3. 一緒に探す。本人の前に立たず、横か後ろから引き出しを指し示す
  4. 先に見つけても自分の手で渡さない。本人が自分で見つける形に戻す
  5. その日のうちに記録する。時刻、直前の出来事、体調、見つかった場所の4点だけ

手順3と4が逆になると、同じ訴えが繰り返されることがあります。家族が見つけて渡すと、本人の中では「やはり持っていた」という結論で終わりやすいと考えられます。

その場で使う声かけを4本置きます。長い説明は入れません。

「盗られた」と言われた直後の5手順4本
  1. 大事なものがなくなったら困るね。どこを探したか教えてくれる?
  2. 通帳だね。先に引き出しから見るね。一緒に見てくれる?
  3. そこ、まだ見ていないかもしれない。開けてみてくれる?
  4. そうか、心配だね。私は台所を見てくるね。

4本目は、自分が疑われて場が固まった時に使います。数分その場を離れる口実を先に用意しておくと、言い返す前に体が動きます。

ビフォー

盗ってないよ。さっき自分でそこに置いたでしょう。何度言ったら分かるの。

アフター

通帳がないのは困るね。一緒に探そう。先に仏壇の引き出しから見ていい?

否定する対応と一緒に探す対応で結果が分かれる流れ図

記録は、あとで主治医とケアマネジャーに渡す材料になります。1件2行で足ります。次は記入例です(日付や内容は例で、実際の記録ではありません)。

「盗られた」と言われた直後の5手順2本
  1. ○月○日19時40分。夕食後に「通帳を盗られた」と発言。20時10分、仏壇の引き出しで本人が発見。この日はデイサービスを休み、便秘3日目。
  2. ○月△日7時20分。起床時に「お金がない」と発言。財布は枕の下にあった。前夜21時から睡眠の薬が変更になっている。

本人以外への説明文例6本(親族・ケアマネ・主治医・近所)#

結論

ポイントは、相手ごとに渡す情報を変えることです。親族には症状の仕組み、専門職には日付と回数、近所には先回りの予告。全員に同じ長文を送ると、どこにも届きません。

きょうだい・親族に送る2本#

訴えは、最も身近で世話をしている人に向きやすいと言われています。毎日やっている人ほど疑われやすいという見方です。この構造を先に共有しておかないと、きょうだいにまで疑われることがあります。

本人以外への説明文例6本(親族・ケアマネ・主治医・近所)2本
  1. 母が「通帳を盗られた」と言う回数が増えています。認知症の症状として知られているもので、身近で世話をしている人に向きやすいと言われています。私を疑う話が母から出ても、まず私に確認してもらえると助かります。
  2. 来月の通院に私も同席します。母の前では「盗られた」の話題を出さないでほしいです。本人が聞くと不安が強くなることがあります。相談は別の日に電話でお願いします。

ケアマネジャー・施設に伝える2本#

本人以外への説明文例6本(親族・ケアマネ・主治医・近所)2本
  1. 9月下旬から、「財布を盗られた」という訴えが週2回ほどあります。便秘が続いた日に多いようです。サービス担当者会議で、貴重品の置き場所と金銭管理の方法を相談したいです。
  2. 本人の前では私が疑われる形になるため、通帳と印鑑の保管を家族以外に移す方法を知りたいです。日常生活自立支援事業と成年後見制度の違いから教えてください。

主治医に渡すメモ1本#

本人以外への説明文例6本(親族・ケアマネ・主治医・近所)

11. 【受診時メモ】訴え: 通帳と財布を盗られた(週2回、9月20日頃から)。疑われる相手: 同居の娘。直前の様子: 便秘3日、夜間のトイレ2回、9月18日から睡眠の薬が変更。日中: デイサービス週2回。困っていること: 介護者が眠れていない。相談したいこと: 体の原因の確認と、薬以外にできることの助言。

受診は時間が短くなりがちです。紙1枚を渡す形にすると、口頭で伝え直す手間が消えます。医療的な判断は主治医・かかりつけ医に委ねます。

近所・交番向け1本#

本人以外への説明文例6本(親族・ケアマネ・主治医・近所)

12. 母が認知症で、物がなくなったと訴えることがあります。警察や近所に訴えが行った時は、この番号に連絡をお願いします。担当のケアマネジャーにも同じ説明をしています。

職員が家族に説明するときの順番#

ここは介護職・ケアマネジャー向けです。家族が本当に困っているのは、症状そのものではありません。自分が疑われること、そしてきょうだいに信じてもらえないことです。説明はこの順番にします。1つ目に、否定しなくていいと許可を出す。2つ目に、疑われるのは距離が近いからだと言い換える。3つ目に、家族以外の窓口を名指しで渡す。

私はケアマネ・相談員として働きながら、実の祖母の在宅介護にも関わりました。介護職として働く母も、実の親の介護になると気持ちの整理がつきにくいと話していました。専門職でも、身内には線を引けません。だから家族に「冷静に対応してください」と求める説明は、ほとんど機能しないと私は考えています。第三者を入れる前提で組み立てます。

相手別に渡す情報を変える説明の設計図

繰り返しを減らす仕組みと、お金を守る順番#

  1. 貴重品の置き場所を1か所に決める。本人が選んだ場所にする
  2. 探す時間を短くする道具を置く。目印、色分け、紛失防止タグ
  3. 通帳のコピーと残高の記録を別に保管する
  4. 現金は少額だけ本人が持つ形に変える
  5. 金銭管理の支援を段階で選ぶ

探す時間が長くなるほど、本人の不安も介護者の消耗も増えます。財布や鍵に紛失防止タグをつけ、音と位置で早く見つかる状態にしておくと、探し物でのやりとり自体が減ることがあります。

選択肢向く状態窓口
家族で管理本人が納得している家族で話し合う
日常生活自立支援契約内容を理解できる社会福祉協議会
成年後見制度判断が難しくなった家庭裁判所
繰り返しを減らす仕組みと、お金を守る順番

日常生活自立支援事業は、社会福祉協議会が本人との契約に基づいて、福祉サービスの利用援助、日常的な金銭管理、書類の預かりなどを行う事業です。本人が契約内容を理解できることが条件になります。利用料は社協ごとに異なるため、地元の社会福祉協議会に確認してください。

口座の凍結や手続きの順番は別記事にまとめています。関連記事: 親の口座凍結を防ぐ|認知症になる前にやること7手順と費用比較。

貴重品の置き場所の固定と金銭管理3段階を示す図

受診と相談の判断基準#

まず当てはまる数を数えます。

受診と相談の判断基準0 / 6

チェックはこの端末に保存されます。印刷して現場に貼る場合はそのまま印刷してください。

2つ以上なら、地域包括支援センターに電話する段階です。地域包括支援センターは、市町村が設置主体となり、保健師・社会福祉士・主任介護支援専門員などを配置する窓口で、介護保険法第115条の46に位置づけられています。

困りごと窓口位置づけ
何から相談地域包括支援センター介護保険法第115条の46
受診を拒む認知症初期集中支援チーム市町村の認知症総合支援事業
診断と専門相談認知症疾患医療センター都道府県などが指定
介護者がつらい家族の会の電話相談公益社団法人の事業
受診と相談の判断基準

認知症初期集中支援チームは、地域包括支援センターなどに配置され、40歳以上で在宅生活をしており、認知症が疑われる人や認知症の人で、医療や介護のサービスを受けていない、または中断している人などを対象としています。受診を拒まれて動けない時に使える仕組みです。

薬の話も押さえておきます。BPSDへの対応は、非薬物的な介入を最優先し、出現する時間、誘因、環境要因などの特徴を探るのが原則とされています。かかりつけ医向けのガイドラインでも、抗精神病薬を第一選択としない方針が示されています。家族が記録を持っていくほど、薬以外に打てる手が増える構造です。

介護者が限界に近い時は、公益社団法人認知症の人と家族の会の電話相談があります。全国フリーダイヤルは0120-294-456、受付は10時から15時(土日祝、夏季、年末年始を除く)。携帯からは050-5358-6578(通話料有料)です。2026年10月4日時点の案内で、事務局移転などで一時休止の掲示が出ることがあるため、公式サイトで確認してください。

2024年1月1日に認知症基本法が施行され、同年12月3日に認知症施策推進基本計画が閣議決定されました。家族が1人で抱える前提ではない方向に制度は動いています。使える窓口は名指しで使ってください。

よくある質問#

本人に「盗ってない」と言ってはいけないのですか。

言ってはいけないというより、効きません。自治体の案内でも、怒ったり否定したりせず、不安に耳を傾け、一緒に探して本人が見つけられるよう導く対応が示されています。否定の代わりに、困っている気持ちへの共感を返してください。

一緒に探して見つかったら、何と言えばいいですか。

「よかったね」で止めます。どこに置いたか、誰が間違えたかの話には戻らないでください。見つかった場所と時刻だけを記録に残します。責任の確認は、本人にとっては新しい攻撃になります。

きょうだいが「あなたが管理しているからだ」と言ってきます。

訴えは最も身近で世話をしている人に向きやすいと言われています(見方の一つです)。その構造を先に文章で共有してください。この記事の文例7と8をそのまま使えます。通院に同席してもらうと、説明役を医師に預けられます。

警察を呼ばれてしまいました。

事前の予告が有効です。文例12のように、家族の連絡先と担当ケアマネジャーの存在を近所や交番に伝えておくと、呼ばれた後の説明が短くなります。呼ばれた時は、本人を責めず、場所を変えることを優先してください。

薬で止められませんか。

BPSDへの対応は非薬物的な介入を最優先とし、抗精神病薬を第一選択としない方針が示されています。体の不調や薬の影響が隠れていることもあります。まず記録を持って主治医・かかりつけ医に相談してください。

施設に入れば収まりますか。

環境が変わって落ち着く場合もありますが、新しい環境で不安が強まることもあります。入所の検討と並行して、在宅で使えるサービスの調整を地域包括支援センターやケアマネジャーに相談するのが先です。

まとめ#

  • 本人への説明は効かない。説明する相手は親族・専門職・近所の3方向
  • その場は5手順。言い返さない、共感、一緒に探す、本人に見つけさせる、記録する
  • 相手別の文例12本を、そのままコピーして使う
  • 便秘・脱水・痛み・不眠・薬の変更の5点を受診前に整理する
  • チェックリストが2つ以上当てはまったら、地域包括支援センターに電話する

次の一歩は1つだけです。今日のうちに、直近1週間で訴えが何回あったかを紙に書き出してください。回数と時刻がそろった時点で、相談の質が変わります。

出典#

出典・参考


この記事を書いた人:ミミ介護支援専門員(ケアマネジャー)

介護施設で生活相談員・ケアマネジャーとして勤務。現場の職員研修と介護現場でのAI活用の推進に携わっています。記事の数字・制度は一次資料の原文を開いて確認してから書いています。誤りに気づいた方はお問い合わせから教えてください。 運営者情報

この記事の「型」を、現場でそのまま使う。

noteでは、記事で扱ったテーマの文例・チェックリスト・早見表を、印刷して申し送りや研修に使える形で配布しています。看取り・ACPの入門記事は無料です。

noteを見る