在宅介護の限界は、限界が来たその日に決めると、選べる道がほとんど残っていません。特別養護老人ホームは原則として要介護3以上の人が対象で、全国の入所申込者は要介護3以上だけで20.6万人います(2025年4月1日時点・厚生労働省)。だから、親がまだ話せて家族も倒れていないうちに、「相談する」「申し込む」「移る」の3つの線を家族で書いておく。この記事は、その線の引き方と、線を越えたと気づくための合図を、そのまま使える形でまとめたものです。
この記事の内容
在宅介護の限界は「数字」より「線を引いた日」で決まる#
在宅介護の限界を「要介護度がいくつになったら」「夜に何回起きたら」と数字で知りたい人は多いはずです。この記事では、その数字を書きません。
理由は2つあります。同じ要介護度でも、同居か別居か、家族が働いているか、家の段差や間取りはどうかで、続けられる範囲が大きく変わるからです。そしてもう一つ、体の状態から「もう家では無理」と判断する部分には、医療の判断が入るからです。そこは主治医・かかりつけ医に確認してください。
代わりに書くのは、家族が自分たちで線を引く方法です。
私は介護医療院で働く施設ケアマネ・相談員です。入所の相談を受ける側にいる立場から言うと、限界はある日突然来るように見えて、その前に小さな合図が出ていることがある、と私は考えています。
限界の日に決めると選べない3つの理由#
在宅を続けるか、施設を考えるか。この判断を「限界が来た日」にすると、次の3つの壁にまとめて当たります。
1. 特養には要介護度の条件がある#
介護保険の施設やサービスには、使える人の条件があります。厚生労働省の介護サービス情報公表システムに書かれている条件を、家族が最初に知っておきたいものだけ並べます。
| サービス | 使える人 | 家族が知っておくこと |
|---|---|---|
| 短期入所生活介護 | 要支援1以上 | 連続で使えるのは30日まで |
| 介護老人保健施設 | 要介護1以上 | 要支援1・2は使えない |
| 介護医療院 | 要介護1以上 | 要支援1・2は使えない |
| 特別養護老人ホーム | 原則要介護3以上 | 要介護1・2はやむを得ない理由がある場合だけ |
| グループホーム | 認知症で要支援2以上 | 要支援1は使えない |

短期入所生活介護は、いわゆるショートステイです。泊まりで数日預かってもらうサービスで、介護サービス情報公表システムには、家族の病気や冠婚葬祭、出張のほか、家族の身体的・精神的な負担の軽減も利用の理由として挙げられています。
2. 申し込んでも、すぐ入れるとは限らない#
厚生労働省が2025年12月に公表した調査では、特別養護老人ホームの入所申込者のうち要介護3以上の人は20.6万人、そのうち在宅で待っている人は8.6万人でした(2025年4月1日時点)。
ただし厚生労働省は、この数には長く名簿に載っている人も含まれ、全員が今すぐ入所を必要としているわけではない、とも書いています。地域によって待ち方は違います。自分の地域の状況は、ケアマネジャーや地域包括支援センターに聞くのが早いです。
3. 限界の日は、家族の誰かが倒れた日になりやすい#
限界の日は、本人が転んで入院した日や、介護している家族が体調を崩した日として来ることもあります。その日に、施設の見学、申込書、きょうだいとの話し合い、仕事の調整を全部やるのは無理があります。
注意: 体調を崩したのが介護している本人なら、まず受診してください。介護の段取りより先です。
家族で先に決めておく3つの線と手順#
ここからが本題です。「施設に入れるかどうか」の二択で考えると、話し合いは止まります。「見捨てるのか」という気持ちが出るからです。
そこで、決めることを3つの線に分けます。
- 線1 相談する: ケアマネジャーか地域包括支援センターに、今の状況を伝える
- 線2 申し込む・増やす: ショートステイや通いのサービスを増やす、要介護度の区分変更を申請する、施設を見学して申し込む
- 線3 移る: 施設への入所や住み替えを決める

線1はできるだけ低く、線3は家族全員が納得できる所に引きます。私は、相談の線はできるだけ低く引いてほしいと考えています。相談しただけで何かが決まるわけではないからです。
線を引く進め方(1回30分の家族会議)#
- 本人が話せるうちに、「どこで、どう暮らしたいか」を本人から聞く。答えを一つに決めさせなくていい
- 家族それぞれが「自分が続けられる範囲」を言う。仕事の休み、移動の時間、お金の上限を含める
- 下のチェックリストを見ながら、線1・線2・線3をどの合図で越えるか、家族で決める
- 決めた線を紙1枚に書き、家族全員とケアマネジャーに同じものを渡す
- 3か月に1回か、入院・退院・要介護度が変わったときに見直す
線を越えたと気づく合図のチェックリスト#
線の高さは家族ごとに違います。ここに並べるのは数字の基準ではなく、話し合いのきっかけにする合図の例です。
チェックはこの端末に保存されます。印刷して現場に貼る場合はそのまま印刷してください。
1つでも当てはまったら線1、つまり相談の合図です。複数が続くなら、線2に進むかどうかを家族で話す時期だと考えてください。
本人と家族の希望が割れたときは、問いを1つ出す#
線を引く話し合いで一番難しいのは、本人と家族の希望が違うときです。
私が施設で関わった方に、本人は施設で最期を迎えたいと言い、家族は家で看取りたいと言って、意見が割れたことがありました。本人に理由を聞くと、家族がいない時間に一人で亡くなるのがとても悲しい、という思いでした。家族には仕事も家庭もあり、つきっきりは難しい状況でした。そこで、家に帰ったときに本人が一人で亡くなることが絶対にないと言い切れるなら、家での看取りも選択肢になる、という問いを家族に出しました。100%は難しいという答えで、家族も本人も納得して施設で過ごすことになりました。
どちらが正しいかを決めるより、何を一番避けたいのかを聞く。厚生労働省は、もしものときに望む医療やケアを前もって考え、家族や医療・ケアチームと繰り返し話し合って共有する取組を「人生会議」と呼んでいます。線を引く家族会議は、その入口にもなります。
家族会議とケアマネへの相談で使う文例#
話し合いの最初の一言が出ないことが多いので、言い方を置いておきます。1本ずつコピーして、自分の家に合わせて直してください。
- (きょうだいへ)今すぐ施設の話をしたいわけじゃなくて、どうなったら誰に相談するかだけ、先に決めておきたい。30分だけ時間をもらえる?
- (本人へ)この先、体が弱ってきたら、どこで暮らしたいと思ってる? 今決めなくていいから、気持ちだけ聞かせて。
- (ケアマネジャーへ)まだ大丈夫なんですが、夜に私が起きる日が続いています。この状態が続いたら何ができるか、今のうちに選択肢を聞いておきたいです。
- (地域包括支援センターへ)離れて暮らす親のことで相談です。介護保険はまだ使っていません。最近、火の消し忘れが続いていて、何から始めればいいか教えてください。

決めたことは、紙1枚にまとめます。書く欄は、本人の希望、家族それぞれが続けられる範囲、線1・線2・線3の合図、相談先の電話番号、見直す日の5つで足ります。
ケアマネジャーとの初回面談で何を先に渡すと計画が変わるかは、別の記事に詳しく書きました。
つまずきやすい注意点#
注意: 施設の見学や申し込みは、入所を決めることとは違います。見学して、待ちの状況を聞いて、断ることもできます。線2で動いておくと、線3を越えたときの選択肢が増えます。
ショートステイは連続30日までという決まりがあります。施設の空きを待つ間の長期の預け先として、最初から当てにしないでください。
線の高さを、ほかの家と比べないでください。同じ要介護度でも、家族の事情で線の位置は変わって当然です。
よくある質問#
要介護1ですが、在宅が限界です。特養には入れませんか。
特養は原則要介護3以上ですが、要介護1・2でもやむを得ない理由がある場合は特例で入所できることがあります。判断は施設と市町村が行うので、まずケアマネジャーか地域包括支援センターに状況を伝えてください。老人保健施設や介護医療院は要介護1から使えます。
施設を考えるのは親を見捨てることになりませんか。
施設を考えることと、関わりをやめることは別です。面会や外出、施設の職員との話し合いで、家族が関われる場面は続きます。迷う気持ちがあるなら、線1の相談から始めれば十分です。
きょうだいが在宅を続けろと言い、話し合いになりません。
在宅か施設かの二択で話すと止まりやすいので、どうなったら誰に相談するか、という線1の話から始めてください。実際に介護している人の負担を、時間と回数で書いて見せると話が進みやすくなります。
本人が施設は嫌だと言っています。
嫌だという理由を先に聞いてください。知らない場所が怖いのか、お金が心配なのか、家族に捨てられると感じているのかで、できることが変わります。ショートステイで泊まりに慣れてから考える、という進め方もあります。
限界かどうか、医療的に判断してほしいです。
体の状態や今後の見通しの判断は、主治医・かかりつけ医に確認してください。受診のときに、家族が見ている合図をメモにして持っていくと、短い診察でも伝わりやすくなります。
まとめ#
- 在宅介護の限界は、限界が来た日に決めると選べる道が少ない
- 特養は原則要介護3以上。入所申込者は要介護3以上で20.6万人、うち在宅8.6万人(2025年4月1日時点)
- 決めることは「相談する・申し込む・移る」の3つの線に分ける
- 合図のチェックリストで、どの合図で線を越えるかを家族で決め、紙1枚に書く
- 本人と家族の希望が割れたら、何を一番避けたいかを聞く問いを1つ出す
- 医療の判断は主治医・かかりつけ医に確認する
次の一歩は、今週中にきょうだいか配偶者へ文例1を送ることです。決めるのは線1だけで構いません。
出典#
- 厚生労働省「特別養護老人ホームの入所申込者の状況(令和7年度)」(2025年12月25日公表・2025年4月1日時点) https://www.mhlw.go.jp/content/12304250/001620895.pdf
- 厚生労働省 介護サービス情報公表システム「どんなサービスがあるの? 介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)」 https://www.kaigokensaku.mhlw.go.jp/publish/group14.html
- 厚生労働省 介護サービス情報公表システム「どんなサービスがあるの? 短期入所生活介護(ショートステイ)」 https://www.kaigokensaku.mhlw.go.jp/publish/group12.html
- 厚生労働省 介護サービス情報公表システム「どんなサービスがあるの? 介護老人保健施設(老健)」 https://www.kaigokensaku.mhlw.go.jp/publish/group15.html
- 厚生労働省 介護サービス情報公表システム「どんなサービスがあるの? 介護医療院」 https://www.kaigokensaku.mhlw.go.jp/publish/group26.html
- 厚生労働省 介護サービス情報公表システム「どんなサービスがあるの? 認知症対応型共同生活介護(グループホーム)」 https://www.kaigokensaku.mhlw.go.jp/publish/group18.html
- 厚生労働省「人生会議してみませんか」 https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_02783.html