「辞めたら、腰は楽になるかな」
夜勤明けのロッカーの前で、腰に手を当てたまま、ふとそう思う。そんな朝は、あるかもしれません。
痛いときは、早めに見てもらうのがいちばんだね。今回は、腰が痛いまま辞めようか迷っている人に、辞める前に知っておくと選べる道が増える話を、飼い主が書くよ。
辞める日が決まる前に、整形外科など医療機関で診てもらって、医師の記録を残しておく。私は、あとの選択肢を残すためにも、これが大事だと見ています。使った資料は5つで、名前は最後の出典にまとめました。
この記事の内容
腰痛の制度は、仕事が原因かどうかで入り口が分かれる#
まず、全体の地図です。腰痛で休んだり辞めたりするとき、お金の面で関わりそうな制度は大きく2つあります。
| 腰痛の原因 | 入り口 | 相談先 |
|---|---|---|
| 仕事が原因 | 労災保険 | 労働基準監督署 |
| 仕事以外が原因 | 健康保険の傷病手当金 | 加入先の健康保険 |
協会けんぽの案内には、業務上・通勤災害によるもの(労災保険の給付対象)は傷病手当金の対象外、と書かれています。労災に当たらないとなった場合の扱いは、加入先の健康保険に確認してください。
だから最初の分かれ道は「この腰痛は、仕事が原因と言えるのか」です。ただ、これを決めるのは自分でも、職場でも、私でもありません。労災なら労働基準監督署、傷病手当金なら健康保険の側が決めます。
労災になる腰痛、ならない腰痛#
厚生労働省のリーフレットは、腰痛の労災の考え方を2つに分けています。
1つめは、仕事中の突発的な出来事で腰に強い力がかかった腰痛です。たとえば、重い物を運ぶ途中で転んだ、2人で担いでいた荷物から片方が手を離した、といった場面があげられています。
2つめは、突発的な出来事はないけれど、腰に負担がかかる仕事を続けて出た腰痛です。リーフレットには、約20kg以上の重い物を繰り返し中腰で扱う仕事に約3か月以上ついたことによる筋肉の疲労が原因の腰痛が、補償の対象になると書かれています。
ここで、介護の現場の人がいちばん気になるところ。ぎっくり腰はどうなるか。
リーフレットには、いわゆる「ぎっくり腰」(病名は「急性腰痛症」など)は、日常的な動作の中で出るので、仕事中に出てもただちに労災補償の対象にはならない、とあります。ただし、発症したときの動作や姿勢の異常さなどから、腰へ強い力がかかったと認められれば、対象になることもある、とも書かれています。
つまり「介護の仕事だから労災」でも「ぎっくり腰だから無理」でもありません。災害性の原因があったか、発症時の動作や姿勢に異常性があったか、というところが見られます。
もう1つ。持病がある人です。椎間板ヘルニアなどの既往症や基礎疾患があって、仕事で再発したり重くなったりした場合、労災の対象になるのは、前の状態に回復させるための治療に限る、とリーフレットは書いています。

労災で出る給付#
労災が認められた場合の給付も、厚生労働省の案内に沿って見ておきます。
療養のための給付は「必要な療養の給付」です。働けなくて賃金が出ないときの休業の給付は、休業4日目から、1日につき給付基礎日額の60%。これとは別に、休業特別支給金として20%が上乗せされます。
請求の期限にも決まりがあります。療養の費用は払った日ごと、休業の給付は賃金を受けない日ごとに請求権が生まれ、その翌日から2年です。
労災の請求書には事業主の証明欄があります。リーフレットには、会社が証明を拒んだ場合でも労災の請求はできる、とあります。困ったら、最寄りの労働基準監督署に相談できます。
仕事以外の腰痛なら、傷病手当金を見る#
労災に当たらない腰痛で働けなくなったときは、健康保険の傷病手当金が候補になります。協会けんぽの案内では、次の4つがそろったときだけが対象です。
- 業務外の病気やケガの療養のための休業であること
- 仕事に就くことができないこと
- 連続する3日間を含み、4日以上仕事に就けなかったこと
- 休んだ期間について給与の支払いがないこと
2つめの「仕事に就けない」は、今までしてきた仕事ができない状態のことです。働けるかどうかは、医師の意見と仕事の内容を合わせて判断される、と協会けんぽは書いています。
待期は、休み始めてから連続して3日間。有給休暇や公休日も数えます。連続して2日休んで3日目に出勤すると、待期は成立しません。支給は4日目からで、期間は支給を開始した日から通算で1年6か月です。
金額は、標準報酬月額という仕組みで人によって違います。ここでは計算しません。

辞めたあとも続けられるのは、条件がそろった人だけ#
ここが、この記事でいちばん伝えたい線です。
退職すると健康保険の資格がなくなります。それでも傷病手当金を続けて受けられる仕組みが「資格喪失後の継続給付」です。協会けんぽの案内では、条件はこうなっています。
| 条件 | 中身 |
|---|---|
| 加入期間 | 資格を失う日の前日(退職日)までに、被保険者期間が継続して1年以上 |
| 受給の状態 | 資格を失う日の前日に、現に受けているか、受けられる状態 |
| 退職日 | 退職日に出勤すると、継続給付は受けられない |
加入期間には、任意継続の期間や国民健康保険の期間は含まれません。
「受けられる状態」とは、さきほどの4つのうち、業務外・仕事に就けない・4日以上休んだ、の3つを満たしている状態のことです。これらを、資格を失う日の前日の時点で満たしているかどうかが見られます。
そして、見落としやすい一文があります。会社を辞めたあとに続けて受ける手当の話です。一度仕事に就けるような状態になると、そのあとまた就けなくなっても、傷病手当金は出ません。
退職日に出勤した場合の扱いも、協会けんぽのよくある質問に載っています。出勤すると、退職日の翌日以降の傷病手当金は支払えない、とのことです。引き継ぎのために最後の日だけ出る、という段取りは、ここに引っかかります。
ここ、地味に大事。辞める日の決め方で、あとから使えるかどうかが変わるからです。
受診のとき、記録に残しておきたいこと#
痛みが続いているなら、辞める日が決まる前に、医療機関で診てもらってください。診断をして意見を書くのは医師の仕事です。働けるかどうかの最終的な判断は、医師の意見をふまえて、加入している健康保険がします。私は医師ではないので、病名や治療のことは書けません。
ここでは、受診のとき自分でできる準備だけを書きます。
- 痛みが始まった日と、そのとき何をしていたかをメモする
- 痛みが出る動作を、思い出せる範囲で書き出す
- 仕事の内容(移乗の回数、夜勤の有無、立ち仕事の長さ)をメモにする
- 診察で、症状と経過は事実のまま伝え、仕事との関係をどう見ているか、医師に聞く
- 休むことになりそうなら、傷病手当金の申請書に医師の記入欄があることを伝える
診察で話すときの言い方と、聞きたいことの一例です。自分に起きたことだけを、起きた順にそのまま伝えます。原因は決めつけません。時刻や日付は説明のための例です。
- 3週間前の夜勤中、ベッドからの移乗のときに腰がぐっと痛くなって、それから座っていても痛みが残っています。
- 毎日の移乗の回数は多くて、腰をかがめた姿勢での介助が続きます。仕事との関係を、先生はどう見ていますか。
- このまま続けるのが難しいかもしれません。仕事を休む必要があるかどうか、診ていただけますか。
メモは、あとで労働基準監督署や健康保険に相談するときにも使えます。申請書は、被保険者本人、事業主、主治医がそれぞれ記入する形だと、協会けんぽが案内しています。

なぜこの順番で見るのか#
最後に、ケアマネ・相談員としての私の見方を書きます。腰の話を考えるときは、「どの制度か」より先に「いつから、何で、記録があるか」を確かめる順番がいいと考えています。
理由は、痛みがいつ・何で始まったかが分かっていないと、どの窓口に何を話せばいいのか決めにくいと、私が考えるからです。これは資料に書いてあることではなく、私の見方です。記録がなくても、相談はできます。
もう1つ。辞めるかどうかは、制度の条件だけで決めなくていいと私は考えています。この記事では、辞めることを勧めも止めもしません。ただ、辞める前に医療機関で診てもらうかどうかは、あとの選択肢を残せるかどうかの話です。
調べきれなかったこともあります。健康保険組合や共済組合の細かい扱い、退職後の医療費や保険料の話は、今回の資料に入っていません。加入先に直接聞いてください。
よくある質問#
辞めたあとに受診しても、労災や傷病手当金は使えませんか?
この記事では判断できません。傷病手当金の継続給付は、資格を失う日の前日(退職日)に、受けているか受けられる状態であることが条件でした。労災の請求には期限があります。辞めたあとでも請求できる場合があるかは、労働基準監督署に確認してください。傷病手当金のほうは、加入先の健康保険に聞いてください。
ぎっくり腰は、仕事中でも労災になりませんか?
厚生労働省のリーフレットでは、ただちには労災補償の対象になりません。ただし、動作や姿勢の異常さなどから強い力がかかったと認められれば、対象になることがあります。判断するのは労働基準監督署です。
会社が労災の証明を書いてくれません。
リーフレットには、事業主の証明が得られなくても労災請求はできる、とあります。最寄りの労働基準監督署に相談してください。
傷病手当金は、いくらもらえますか?
標準報酬月額の平均から決まる日額で、人によって違います。健康保険組合など協会けんぽ以外の場合は、加入先で確認してください。
退職日に引き継ぎで出勤しても大丈夫ですか?
協会けんぽのよくある質問では、退職日に出勤すると、退職日の翌日以降の傷病手当金は支払えない、とされています。継続給付を考えているなら、退職日の決め方を先に確認してください。
出典#
- 厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署 リーフレット「業務上腰痛の認定」(R7.3) (2026年11月3日閲覧) https://www.mhlw.go.jp/content/001429143.pdf
- 協会けんぽ「傷病手当金」(2026年11月3日閲覧) https://www.kyoukaikenpo.or.jp/benefit/injury_and_sickness_allowance/index.html
- 協会けんぽ「病気やケガで会社を休んだとき(傷病手当金)」よくあるご質問 (2026年11月3日閲覧) https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g6/cat620/r307/
- 厚生労働省「各労災保険給付の支給事由と内容について」(2026年11月3日閲覧) https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000166858.html
- 厚生労働省「労災保険の各種給付の請求はいつまでできますか」(2026年11月3日閲覧) https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000154480.html
- 腰が痛いとき、まず1つだけ。痛みが始まった日と、そのとき何をしていたかを、スマホのメモに書いておいてください。ほかのことは、あとからでも大丈夫です。
- 腰も、ちゃんと診てもらってから決めて大丈夫だよ。
- この記事の受診の言い方や日付は、説明のために作った例です。実在の人や職場の話ではありません。