新人が来週入るのに、教育担当がまだ決まっていない。全体に声をかけても誰も手を挙げない。結論から書きます。決まらない原因は人選ではなく、1人に4つの役割をまとめて渡そうとしていることです。指導・相談・判定・計画の4つに割り、別々の人に配れば決まります。この記事では、その分け方、指名の文例、シフトと制度への載せ方を、今日30分で終わる順に並べました。制度の記述は2026-09-09時点のものです。
この記事の内容
教育担当が決まらない理由は「渡す範囲が無限」だから#
決まらない事業所で起きていることは、だいたい同じです。管理者が朝の会議で「新人が入るので、誰か教育担当をお願いしたい」と全体に投げる。その場は沈黙で終わる。9時の申し送りの直後に、フロアで「今日は誰が見ますか」とその都度決まる。こういう光景は珍しくありません。
頼まれた側から見ると、教育担当という言葉の中身はこれだけあります。業務の手本を見せる、質問に答える、記録を直す、独り立ちできるか判定する、家族対応に同席させるか決める、シフトを調整する、辞めそうなときに面談する。全部が1人分の名前で呼ばれていて、しかも勤務時間に載っていない。断られるのは当然です。
私は、ここで「責任感のある職員が育っていない」と人の問題にするのが、いちばんまずいと考えています。役割の設計が粗いだけなので、割れば決まります。
結論として、教育担当は次の4つに分けます。分けた瞬間に、1人あたりの負担が「引き受けられる大きさ」になります。
| 役割 | やること | 向く人 | 時間の目安 | 渡さないもの |
|---|---|---|---|---|
| OJT指導 | 業務の手本と同行 | 新人と同じ勤務帯が多い人 | 勤務時間の中 | 到達度の判定 |
| 相談役 | 業務外の困りごとの窓口 | 別チーム・別ユニットの先輩 | 週15分 | 指導と評価 |
| 判定 | 到達度の判定と月1面談 | 主任・リーダー | 月30分 | 日々の指導 |
| 計画と時間 | 3か月計画・シフト確保・記録 | 管理者(自分) | 月60分 | 誰かへの丸投げ |
なぜ指導する人と判定する人を分けるのか#
手順の話に入る前に、ここだけは理由を書いておきます。指導者と評価者が同じ人だと、新人は「できません」と言えなくなるからです。独り立ちの可否を握っている相手に、自分の不安を正直に出せる人はほとんどいません。相談が止まった結果として出てくるのが、転倒の見落としや服薬の申し送り漏れです。
相談役を別のラインに置くのは、優しさの話ではなく事故を早く知るための設計です。だから相談役は、同じチームの中で「面倒見のいい人」を選ぶのではなく、評価に関与しない別チームから選びます。
教育担当を30分で決める7手順#
- 新人の入職日と、3か月後にどこまで到達させるかを1行で書く。例えば「日勤帯の担当フロアを、独りで一巡できる」。ここが空白のまま人選を始めると、必ず議論が止まります。
- 直近4週のシフト表を出し、新人の勤務と各職員の勤務が何時間重なるかを数える。感覚ではなく実数で出します。
- 重なり時間が多い上位2名をOJT指導の主・副に置く。副を置くのは、主が休みの日に「今日は誰が見るのか」を消すためです。
- 相談役を、評価に関与しない別チームから1名決める。新人には初日に名前と連絡方法を伝えます。
- 判定は主任またはリーダーが持つ。判定の基準表は先に作っておき、指導者にも新人にも同じものを渡します。
- 計画と時間の確保は管理者が持つ。ここだけは他へ渡しません。理由は後述します。
- 個別に指名し、掲示で周知し、2週間後の見直し日をその場でカレンダーに入れる。
なぜ経験年数ではなく「重なり時間」で選ぶのか#
人選でもめる事業所は、ほぼ全部が経験年数と資格で選ぼうとしています。しかし指導は、同時に働いた時間の関数です。10年目のベテランでも、夜勤専従で新人と月に2回しか重ならないなら、渡せるものはほとんどありません。逆に3年目でも、日勤帯で週4回重なるなら十分に手本になります。
重なり時間を数えると、人選の議論が印象から表に変わります。指名される側も「なぜ自分なのか」が数字で分かるので、断られる確率が下がります。数え方は単純で、シフト表の勤務記号を時間に直し、新人の勤務と重なるコマを合計するだけです。
そのまま使える指名・周知の文例5本#
言い方だけで通り方が変わります。共通しているのは、範囲・時間・終わりの3つを最初に言い切ることです。
- 来月入る新人の件で、OJT指導をお願いしたいです。範囲は日勤帯で一緒に入る日の業務の同行だけで、独り立ちの判定と面談は主任が持ちます。期間は3か月、見直しは2週間後にします。
- 負担が読めないのは分かります。今回は判定と家族対応を外してあり、記録の確認も私がやります。同行の日は担当利用者を2名減らしてシフトを組みます。それでも厳しければ、副の担当を先に決めてから相談させてください。
- 相談役をお願いしたいです。指導も評価もしません。週に1回15分、新人が困っていることを聞いて、私に「言いにくそうな話があるかどうか」だけ教えてください。内容そのものは共有しなくて構いません。
- 新人の受け入れ体制を掲示します。OJT指導は主が◯◯、副が◯◯。相談役は別ユニットの◯◯。到達度の判定と月1面談は主任。計画とシフトの確保は私が持ちます。日々の判断で迷ったら、その日の勤務でOJT担当が入っているかを先に見てください。
- あなたの担当は3人います。仕事を教えるのは◯◯さん、困ったことを何でも聞ける相手は別ユニットの◯◯さん、できるようになったかを判定するのは主任です。教えてくれる人に言いにくいことは、相談役に言って構いません。それで評価は下がりません。
次の2つは同じ依頼です。上を下に変えるだけで、返事が変わります。
新人が入るので、教育担当をお願いできますか。分からないことがあったら教えてあげてください。
新人のOJT指導をお願いします。範囲は同じ勤務帯に入る日の同行だけ。判定と面談は主任、記録の確認は私です。期間は3か月で、2週間後に一度見直します。
教育担当をシフトに載せる。制度側も「担当を置け」と言っている#
教育担当が決まらないもう1つの原因は、指導の時間が勤務表のどこにも書かれていないことです。書かれていない仕事は、本人の中では残業になり、事業所の中では存在しないことになります。
ここは制度の側から押し返せます。介護保険の運営基準は、事業者に対して従業者の資質向上のための研修の機会を確保することを求めています。さらに、虐待の防止のための措置では担当者を定めることが求められ、認知症介護基礎研修は無資格の介護職員に受講が義務づけられました(新規採用者には一定の猶予期間があります)。介護職員等処遇改善加算のキャリアパス要件でも、資質向上の目標と具体的な計画を定め、研修の実施または研修機会の確保を行うことが求められています。
つまり「誰が新人を育てるか決まっていない」状態は、現場の困りごとであると同時に、運営指導で説明できない状態でもあります。管理者が計画と時間の確保を手放してはいけない理由がここにあります。指導者に渡せるのは指導であって、計画の責任は渡せません。
新規採用時に実施が求められる主な研修は、次のとおりです。
| 研修 | 頻度の目安 | 新規採用時 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 虐待の防止 | 年1回以上 | 必要 | 委員会と指針、担当者の設置も必要 |
| 身体拘束等の適正化 | 年2回以上 | 必要 | 施設系など対象サービスに限る |
| 感染症の予防 | 年1〜2回以上 | 必要 | 施設系は年2回以上が目安 |
| 業務継続計画(BCP) | 年1〜2回以上 | 必要 | 訓練とセットで実施 |
| 認知症介護基礎研修 | 受講義務 | 採用後に受講 | 無資格の介護職員が対象 |
注意。研修の回数はサービス種別で異なります。施設系と訪問系で年2回と年1回が分かれる項目があるため、自事業所の種別については必ず自治体の集団指導資料と最新の解釈通知で確認してください。この表は計画を立てる順番を決めるための目安です。
記録も同じです。指導した日、内容、新人の反応を1行で残していないと、監査でも本人の評価でも実施していないのと同じ扱いになります。様式は複雑にしないでください。日付、場面、できたこと、次に見ること、の4項目で足ります。
決めた後に崩れないためのチェックリスト#
決めた翌週に元へ戻る事業所は、たいてい次のどれかが抜けています。
チェックはこの端末に保存されます。印刷して現場に貼る場合はそのまま印刷してください。
3か月の進み方と、担当を交代してよい基準#
担当を決めたあとは、週単位で何を見るかを決めておきます。ここが空白だと、指導者が自分の裁量で全部を抱えてしまいます。
| 時期 | 新人の状態 | 指導者がやること | 管理者の確認 |
|---|---|---|---|
| 1〜2週 | 場所と名前を覚える | 常に同行し手本を見せる | 相談役との顔合わせ |
| 3〜4週 | 見守りで一部を実施 | やらせて後ろから見る | 重なり時間の実績を確認 |
| 2か月 | 日勤の流れを一巡 | 危険な場面だけ介入 | 判定者による1回目の面談 |
| 3か月 | 独りで一巡できる | 記録の質を詰める | 独り立ちの可否を判定 |
担当の交代は、失敗ではありません。次のいずれかに当たったら、責めずに配置を変えます。指導者と新人の重なり時間が2週続けて週4時間を下回った。指導者が2人目の新人と重なった。指導者の時間外労働が前月より明らかに増えた。新人から相談役に「合わない」という話が上がった。
人が悪いのではなく、シフトが変わっただけであることがほとんどです。交代の基準を最初に公表しておくと、指名を受ける側の心理的な負担がさらに下がります。
まとめ#
- 教育担当が決まらないのは人選ではなく、1人に4役を束ねているから
- 指導・相談・判定・計画に割り、判定と計画は指導者に渡さない
- 選ぶ基準は経験年数ではなく、新人との勤務の重なり時間
- 指名では範囲・時間・期間・終わりを先に言い切る
- 指導の時間はシフトに書き、記録は4項目で残す
- 研修の実施と担当者の設置は、運営基準と加算の要件にも直結する
次の一歩は1つだけです。直近4週のシフト表を開き、新人と各職員の重なり時間を数えてください。人選の会議より先に、この表を作った事業所から決まります。
よくある質問#
声をかけても引き受けてくれる人が一人もいません。
束ねたまま聞いているうちは、誰も引き受けません。まず判定と計画を管理者と主任で引き取り、残った「同行だけ」を、重なり時間の多い人に個別で依頼してください。全体の場で募集する形をやめるだけでも通り方が変わります。
教育担当に手当は必要ですか。
手当そのものは制度上の義務ではありません。ただし処遇改善加算のキャリアパス要件では、昇給の仕組みや資質向上の計画が問われます。手当を出すかどうかより先に、指導の時間を勤務時間として認め、記録に残すことを優先してください。金額の設計は就業規則と賃金規程の改定が必要になるため、法人の担当部署に確認を。
パートや派遣の職員に教育担当を任せてよいですか。
同行して手本を見せるOJT指導は、勤務が重なっていれば問題ありません。一方で、到達度の判定や独り立ちの可否は雇用形態にかかわらず責任の所在が事業所側にあるため、常勤のリーダーまたは管理者が持ってください。
決まらないまま新人が入ってしまいました。今日から何をすればよいですか。
今日は「今日の同行者」だけを決めます。翌日までに相談役を1名決めて新人に伝え、週内に重なり時間を数えて主・副を確定させてください。順番を逆にすると、また全体への呼びかけに戻ります。
無資格の新人がいます。研修は何から手を付けますか。
認知症介護基礎研修の受講手続きを最初に押さえてください。無資格の介護職員に受講が義務づけられており、自治体やeラーニングで実施されています。並行して、虐待の防止と感染症の予防の新規採用時研修を入れます。実施日と受講者名は必ず記録に残してください。
出典#
- 厚生労働省「指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準」(平成11年厚生省令第37号)勤務体制の確保等(従業者の研修機会の確保)
- 厚生労働省「指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準」(平成11年厚生省令第39号)虐待の防止のための措置(委員会・指針・研修・担当者の設置)
- 厚生労働省「介護職員等処遇改善加算等に関する基本的考え方並びに事務処理手順及び様式例の提示について」(令和6年老発通知)キャリアパス要件および職場環境等要件
- 厚生労働省「認知症介護基礎研修の義務づけ」に関する介護保険最新情報(令和3年度介護報酬改定、経過措置終了は令和6年4月)
- 厚生労働省「介護施設・事業所における業務継続計画(BCP)作成支援」研修および訓練の実施に関する解釈通知
- 公益財団法人 介護労働安定センター「令和5年度 介護労働実態調査」離職者の勤続年数別構成