高額介護サービス費は、1か月の介護保険サービスの自己負担が上限を超えたとき、超えた分が後から現金で戻る制度です。戻る額は「1か月の自己負担合計 − 世帯の上限額」の引き算1回で出ます。上限は世帯の住民税の状況で決まり、多くの世帯は月44,400円、住民税非課税世帯は24,600円。申請は最初の1回だけで、以後は同じ口座に自動で振り込まれます。時効は2年です。本記事は2026年9月7日時点の制度に基づきます。
この記事の内容
30秒で出す:戻る額は「1か月の自己負担 − 上限額」#
結論から書きます。支給額を決めているのは次の1行だけです。
1か月(暦月)の介護サービス自己負担の合計 − 世帯の上限額 = 戻る額
難しいのは引き算ではありません。「自己負担の合計」に何を入れて何を入れないか、そして「世帯」をどこまで数えるかです。まず3つの計算例で形をつかんでください。
| ケース | 自己負担 | 上限額 | 戻る額 |
|---|---|---|---|
| 1割・在宅 | 18,200円 | 44,400円 | 0円 |
| 2割・在宅 | 62,000円 | 44,400円 | 17,600円 |
| 1割・特養(非課税) | 27,000円 | 24,600円 | 2,400円 |
3つ目に注意してください。この月に施設から届いた請求書の総額は119,000円ですが、そのうち介護サービス費の自己負担は27,000円だけです。残りの食費・居住費・日常生活費は高額介護サービス費の対象外なので、計算に入れません。
世帯に利用者が2人いるときは合算してから按分する#
上限額は個人ではなく世帯にかかります。夫婦2人が介護保険サービスを使っている場合、それぞれの自己負担を足してから引きます。
夫28,000円 + 妻25,000円 = 53,000円。ここから上限44,400円を引いて8,600円が世帯の支給額です。これを負担額の比で按分し、夫に約4,543円、妻に約4,057円が振り込まれます。片方だけを見て「上限に届いていない」と判断すると、本来戻るお金を取りこぼします。
上限額の早見表(2026年9月7日時点)#
上限額は2021年8月に見直され、住民税課税世帯の上位が3段階に分かれました。現在もこの区分です。
| 区分 | 世帯の上限 | 個人の上限 |
|---|---|---|
| 課税所得690万円以上 | 140,100円 | 同左 |
| 課税所得380万〜690万円未満 | 93,000円 | 同左 |
| 課税世帯(課税所得380万円未満) | 44,400円 | 同左 |
| 世帯全員が住民税非課税 | 24,600円 | 同左 |
| 年金収入等が年80万円以下等 | 24,600円 | 15,000円 |
| 生活保護受給者等 | 15,000円 | 15,000円 |
読み方のポイントが2つあります。1つ目、課税所得の判定に使うのは同じ世帯にいる65歳以上の方の課税所得です。年収の目安は、690万円が約1,160万円、380万円が約770万円に相当します。2つ目、非課税世帯の下2行だけ「個人の上限15,000円」が出てきます。世帯で24,600円を超えていなくても、本人分が15,000円を超えていれば個人分として戻る場合があるという意味です。ここは自分で判断せず、市区町村の介護保険担当に区分を確認してください。
戻らない費用を先に外す。ここで計算が9割狂う#
介護保険で払ったお金のすべてが対象になるわけではありません。対象外を先に外してから足すのが鉄則です。
| 費用の種類 | 対象 | 補足 |
|---|---|---|
| 訪問・通所・施設のサービス費 | 対象 | 1〜3割の自己負担分 |
| 福祉用具の購入費 | 対象外 | 別枠で年10万円まで |
| 住宅改修費 | 対象外 | 別枠で20万円まで |
| 施設の食費・居住費 | 対象外 | 負担限度額認定が別にある |
| 日常生活費・おむつ代 | 対象外 | 理美容代や個人の嗜好品も同じ |
| 限度額超過の全額自己負担 | 対象外 | 区分支給限度基準額の超過分 |
| 総合事業のサービス | 要確認 | 市町村の実施要綱による |
注意してほしいのは施設からの請求書です。介護サービス費・食費・居住費・日常生活費が1枚にまとまって届くため、総額のまま上限額と比べると必ず多く見積もることになります。「12万円払ったのだから7万円戻るはず」という相談は珍しくありませんが、実際に対象になるのはそのうちの3割程度ということが起こります。
福祉用具の購入費と住宅改修費が対象外なのは、これらに専用の給付枠があるからです。福祉用具購入費は年間10万円まで、住宅改修費は原則20万円まで、それぞれ自己負担割合に応じて払い戻されます。どちらも都道府県の指定を受けた事業者から購入・施工した場合に限られる点は共通です。ネット通販で同じ商品を安く買っても給付は受けられません。
申請までの6ステップと、そのまま使える確認の文例#
- 介護保険負担割合証を出し、自分(または親)の負担割合が1割か2割か3割かを確認する。毎年7月に更新され、8月から新しい割合になります。
- 世帯全員の住民税の課税・非課税を確認し、早見表で上限額を1つに決める。判断がつかなければ市区町村の窓口で区分だけ聞きます。
- 対象月1か月分の書類を集める。在宅なら各事業所の請求書と利用票別表、施設なら施設からの請求明細です。
- 対象外の費用を除いて自己負担だけを足す。食費・居住費・日常生活費・おむつ代・福祉用具購入費・住宅改修費は入れません。
- 合計から上限額を引く。プラスになれば支給対象です。市区町村から届く支給申請書に口座を書いて提出します。提出は初回の1回だけで、以後は同じ口座へ自動で振り込まれます。
- 支給決定通知と入金を確認する。該当しているはずなのに3〜4か月経っても書類が届かない場合は、こちらから問い合わせます。
手順3と5でつまずく人が多いので、そのまま読み上げて使える文例を置いておきます。
- 市区町村の介護保険担当への電話「◯◯町の△△と申します。母(被保険者番号0000000000)の高額介護サービス費について伺います。7月分の自己負担が上限を超えていると思うのですが、支給申請書はいつ頃届きますか。これまで一度も申請したことがありません。」
- 担当ケアマネジャーへの確認「先月の利用者負担のうち、高額介護サービス費の対象になる金額の合計を教えていただけますか。食費と日常生活費は除いた金額でお願いします。」
- 施設の請求担当への確認「請求書の内訳のうち、介護保険サービス費の自己負担分はどれになりますか。食費・居住費・日常生活費と分けて教えてください。」
- 過去分をさかのぼりたいとき「昨年11月分から申請していない月があると思います。時効は2年と聞きました。さかのぼって申請できる月を教えてください。」
提出前の確認はこのチェックリストで足ります。印刷して請求書に挟んでおくと、翌月も同じ手順で終わります。
チェックはこの端末に保存されます。印刷して現場に貼る場合はそのまま印刷してください。
なぜ「区分 → 対象外の除外 → 世帯合算」の順で見るのか#
手順を並べるだけでは、順番を入れ替えた人がまた迷います。この順序には理由があります。
私は施設のケアマネとして家族から相談を受ける側にいますが、最初に出てくる言葉はほぼ決まって「先月いくら払ったか」の総額です。制度が見ているのはその総額ではありません。だから最初に上限額(区分)を決めます。区分が44,400円なのか24,600円なのかで、そもそも計算する意味があるかどうかが変わるからです。非課税世帯なら在宅の1割負担でも届くことがあり、課税世帯なら2割以上でないとほぼ届きません。
次に対象外を外します。ここを後回しにすると、超えているように見えて実は超えていない、という誤解のまま窓口に行くことになります。そして落胆して帰ってしまい、本来その場で申請すべきだった負担限度額認定を見逃します。順番を守る実利はここにあります。高額介護サービス費で戻らないと分かった瞬間が、食費・居住費を下げる制度に切り替える合図です。
世帯合算を最後にするのは、個人の数字を確定させないと按分ができないからです。逆から入ると、どちらの負担がいくらだったかを結局もう一度分解することになります。
つまずきやすい5つの落とし穴#
先月は施設に12万円払った。上限の44,400円を大きく超えているので、7万円以上戻るはずだ。
12万円のうち介護サービス費の自己負担は32,000円。残りは食費・居住費・日常生活費で対象外。上限44,400円に届かないのでこの月の支給はない。代わりに負担限度額認定を申請する。
- 上限は月単位です。3月に少なく4月に多くても、2か月を平均することはできません。年間で医療費と合わせて見る制度は、後述の高額医療・高額介護合算療養費制度です。
- 世帯は住民票上の世帯で判定します。同じ住所に住んでいても住民票の世帯が別なら別計算になります。これは制度上そうなっているという事実で、世帯を分けることを勧める話ではありません。分けると国民健康保険料などが増える場合があり、総額で損をすることもあります。
- 償還払いです。いったん全額を払い、後から戻ります。申請から振込までは自治体差がありますが、サービス利用月から3〜4か月後になることが多いと考えてください。
- 時効は2年です。サービスを受けた月の翌月1日から2年を過ぎると請求できません。逆に言えば、2年以内なら過去の分もさかのぼって申請できます。親の介護を引き継いだ直後の方は、まずここを確認してください。
- 支給限度基準額を超えて使った分は、何割負担でもなく全額自己負担で、高額介護サービス費の対象にもなりません。区分変更申請で要介護度そのものを見直せる場合があるため、心身の状態が明らかに重くなっているならケアマネジャーに相談してください。医療的な判断が必要な場面では、主治医・かかりつけ医に確認を取ってから動きます。
よくある質問#
申請しないと戻らないのですか。
初回は申請が必要です。多くの市区町村では、該当した月から2〜3か月後に支給申請書が郵送されます。一度提出すれば、以後は同じ口座に自動で振り込まれるのが一般的です。ただし引っ越しや口座変更のときは届出が要ります。
いつ振り込まれますか。
自治体によって差がありますが、サービスを利用した月から3〜4か月後が目安です。事業所からの請求(国保連への伝送)が確定してから計算されるため、どうしても時間差が出ます。遅いと感じたら市区町村の介護保険担当に、対象月を伝えて進捗を聞いてください。
何年前まで、さかのぼって申請できますか。
2年です。サービスを受けた月の翌月1日から2年で時効になります。過去に該当していたのに申請していない月がある場合は、まとめて窓口に相談してください。
施設の食費や部屋代も対象になりますか。
対象外です。食費・居住費を軽くする制度は負担限度額認定(特定入所者介護サービス費)で、こちらは住民税非課税世帯であることと、預貯金などが一定額以下であることが条件です。申請窓口は同じなので、一度に相談してください。
医療費と合算できますか。
月単位では合算できません。1年間(8月1日から翌年7月31日)の医療保険と介護保険の自己負担を合算する高額医療・高額介護合算療養費制度が別にあります。こちらも申請が必要で、時効は2年です。
上限額の区分は毎年変わりますか。
区分そのものは2021年8月の見直し以降変わっていませんが、判定に使う住民税の課税状況は毎年8月に切り替わります。前年の所得が下がった年は区分も下がる可能性があるため、8月以降にもう一度確認してください。
まとめ#
- 戻る額は「1か月の自己負担合計 − 世帯の上限額」の引き算1回で出る
- 上限は課税世帯の多くが44,400円、住民税非課税世帯は24,600円(2026年9月7日時点)
- 食費・居住費・日常生活費・福祉用具購入費・住宅改修費は計算に入れない
- 上限は世帯単位。同じ世帯に利用者が2人いれば合算してから按分する
- 申請は初回のみ。時効は2年で、過去分もさかのぼれる
- 対象外だった場合は、負担限度額認定に切り替えて相談する
次の一歩は1つだけです。手元にある先月の請求書を開き、介護サービス費の自己負担だけを丸で囲んでください。その数字が上のチェックリストの出発点になります。丸を付けられない、内訳が分からないという場合は、この記事の文例3をそのまま施設か事業所に伝えれば内訳が出てきます。
出典#
- 厚生労働省「介護保険の解説 サービスにかかる利用料」(高額介護サービス費の上限額および対象範囲)
- 厚生労働省「高額介護サービス費の見直し」令和3年8月施行 関係資料(課税所得690万円以上140,100円、380万円以上93,000円の区分新設)
- 厚生労働省「特定入所者介護サービス費(補足給付)の見直し」令和3年8月施行 関係資料(食費・居住費の負担限度額認定)
- 厚生労働省「高額医療・高額介護合算療養費制度」(8月1日から翌年7月31日の年間合算)
- 介護保険法 第51条(高額介護サービス費)、第51条の3(特定入所者介護サービス費)、第200条(2年の消滅時効)
- 厚生労働省「介護保険制度における利用者負担割合」(負担割合証の適用期間は8月1日から翌年7月31日)
- 各市区町村の介護保険担当窓口(支給申請書の送付時期・振込時期・総合事業の取扱いは自治体により異なります)