プリセプターを付けたのに、新人が3か月で辞めた。退職面談で出てきた言葉は「何を教わったのか思い出せない」だった。原因は指導者の熱意ではなく、管理者が計画を渡していないことにある。この記事は、介護現場のプリセプターの進め方を12週に分解し、週次の到達表、15分面談の文例5本、指導者を潰さないためのチェックリストをそのまま置く。2026-09-01時点の制度に基づいて書いた。
この記事の内容
プリセプターが続かない原因は、熱意ではなく紙が3枚足りないこと#
17時30分、記録の時間。入職2週間の新人が、フロアの隅で立ったままパソコンの前を離れられない。プリセプターは自分の受け持ちの記録に追われていて、声をかけられる状態ではない。私は施設のケアマネ兼相談員として、この場面を毎年見ている。ここで起きているのは指導の失敗ではない。指導の設計がそもそも存在していない状態だ。
多くの事業所は、プリセプターに「新人を見てあげて」と口頭で頼んで終わっている。渡しているのは役割の名前だけで、中身は個人の記憶と気分に委ねられる。だから指導者が変わると教える順番が変わり、新人は「人によって言うことが違う」と受け取る。
結論。管理者がプリセプターに渡すべきものは、次の3枚だけです。この3枚があれば、指導が上手い職員でなくても制度は回ります。
- 12週の週次計画表(いつ何を、どこまで任せるか)
- 週1回15分の振り返り面談の型(聞く順番が決まっている)
- 到達判定の基準(できた・できないを誰が決めるか)
逆に言えば、この3枚を作らずに研修時間だけ増やしても、新人の不安は減らない。新人が知りたいのは「自分は今どこにいて、いつ独り立ちなのか」という現在地であって、追加の座学ではない。
プリセプター・エルダー・メンターの違いと、処遇改善加算での位置づけ#
介護現場では呼び方が混ざりやすい。役割を分けずに1人へ全部背負わせると、指導者が最初に潰れる。まず定義を紙にする。
| 呼び方 | 役割 | 期間 | 担当者 |
|---|---|---|---|
| プリセプター | 業務手順のマンツーマン指導 | 入職〜3か月 | 経験3年以上の同職種 |
| エルダー | 職場への適応・日常の相談 | 入職〜1年 | 同じフロアの先輩 |
| メンター | 進路やキャリアの相談 | 1年目以降 | 別部署の中堅・管理職 |
| 実地指導者 | 到達度の判定と記録 | 節目のみ | 主任・フロアリーダー |
この分け方の要点は、教える人と判定する人を分けることにある。同じ人が教えて評価すると、新人は「できません」と言えなくなる。言えなくなった瞬間から、報告に上がらないヒヤリハットが増える。
制度面でも、新人指導の担当者を置くことは加算の評価対象に入っている。2024年度の介護報酬改定で介護職員処遇改善加算は一本化され、算定要件のひとつである職場環境等要件のなかに、エルダー・メンター(新人指導担当者)制度等の導入が例示されている(2026-09-01時点)。ただし区分ごとに必要な取組数や上位区分の追加要件は、改定と自治体の運用で変わる。届出の前に、最新の厚生労働省通知と指定権者の様式を必ず確認してほしい。
加算のために制度名を掲げても、実施記録がなければ実地指導で説明できない。週次面談の記録用紙を残すこと自体が、取組の裏づけになる。
12週の週次計画:介護のプリセプターの進め方を週単位で決める#
進め方は、見学 → 一緒に → 見守り → 単独、の4段階を12週に割り付ける。日数ではなく到達点で進むのが原則だが、目安がないと現場は動けないので週で区切る。
手順は次の8つ。
- 入職の2週間前までにプリセプターを指名し、本人に直接伝える。初日の朝に発表しない
- 指名と同時に、指導期間中の受け持ち業務をどれだけ減らすかを本人と決める
- 入職前日までに12週の計画表を2部印刷し、新人とプリセプターの両方に渡す
- 初日の30分で、教える範囲と、この3か月は教えない範囲を口頭で確認する
- 1〜4週は見学と同行にとどめ、新人に判断はさせない
- 5〜8週は手順を実施させ、判断はプリセプターが必ず確認する
- 9〜12週は単独で実施し、プリセプターは別業務に入る。呼べば来る距離を保つ
- 毎週末に15分の振り返り面談を行い、4週・8週・12週は主任が同席して到達判定をする
| 週 | 主題 | 到達点 | 管理者の動き |
|---|---|---|---|
| 1〜2週 | 生活の流れ | 1日の動線と時間帯ごとの人の動きを言える | 初日面談・役割の周知 |
| 3〜4週 | 移乗と食事 | 手順を声に出しながら介助できる | 4週判定・不安の言語化 |
| 5〜6週 | 記録と申し送り | 事実と解釈を分けて書ける | 記録を3件だけ読む |
| 7〜8週 | 排泄と入浴 | 利用者ごとの手順書を自分で確認する | 8週判定・夜勤の可否 |
| 9〜10週 | 単独の日勤 | 呼ぶタイミングを自分で決められる | 指導者側の負荷を確認 |
| 11〜12週 | 急変時の初動 | 誰に何を報告するか順番を言える | 12週判定・次の目標設定 |
夜勤の開始時期はここで決め打ちしない。人員配置と本人の到達度で変わる。判定の考え方は、関連記事「新人の独り立ちはいつ?シフトで決めない4段階の昇段条件」に4段階でまとめてある。
注意。12週の計画表を作ったあと、シフト作成者に渡し忘れる事業所が多いです。計画とシフトが別々に動くと、同行のはずの週にプリセプターが公休で、新人が別の職員に付くことになります。
週15分の振り返り面談:そのまま読み上げられる文例5本#
面談は長さではなく順番で決まる。先週できるようになったこと、こわかった場面、来週やること。この3点を毎回同じ順で聞く。以下は声に出してそのまま使える文例。
- 初日の30分面談(範囲を決める)今日から3か月、私が担当します。この3か月で覚えてもらうのは、日勤帯の食事、移乗、排泄、記録の4つです。夜勤と看取りの対応はこの期間には入れません。覚えることが多すぎて何から手を付けるか分からない、という状態にはしません。
- 1週目の終わり(事実から聞く)今週ひとりでやってみて、一番こわかった場面はどこですか。うまくできた話より先に、こわかった話を聞かせてください。
- できていないことを伝える(人ではなく手順を指す)さっきの移乗、手順の3番目が抜けていました。声をかける前にベッドの高さを合わせる、が先です。順番を戻せば安全にできます。今から1回だけ一緒にやり直しましょう。
- 新人が黙り込んだとき今すぐ答えなくて大丈夫です。分からないことが分からない時期なので、それが普通です。次の1週間は、迷った瞬間に私を呼ぶこと、それだけを目標にします。
- 8週目、伸び悩んでいるとき8週目で全部できる人はいません。今の到達点は3つのうち2つです。残りの1つは排泄介助の手順書の確認で、これは覚える力ではなく確認する習慣の問題です。来週から手順書を持ち歩いてください。
聞き方ひとつで、返ってくる情報量が変わる。
何か分からないことある?
今週ひとりでやって、一番こわかった場面はどこですか。時間と場所で教えてください。
指導記録も同じで、感想で書くと翌週に使えない。
移乗が不安そう。継続して見ていく。
9月4日15時、A様の車椅子移乗。ベッドの高さ調整が抜けたため声かけで修正。次週は高さ調整を口に出して確認してもらう。
面談記録は1回5行で足りる。書式を毎回考えないために、同じ用紙を12枚印刷して綴じておく。
プリセプターを潰さないために、管理者が先に減らすもの#
指導期間の3か月、プリセプターは通常業務に加えて新人の安全も見ている。この負荷を放置すると、辞めるのは新人ではなく指導者のほうになる。
注意。プリセプターに、指導と通常業務を同じ量で持たせないでください。そのうえ評価の責任まで負わせると、指導者は新人に厳しいことを言えなくなります。
管理者が先に減らすものは3つ。
- 受け持ち利用者数を減らす(減らせない月は、そもそもプリセプターを立てない)
- 委員会や研修係などの兼務を、3か月だけ他の職員へ振る
- 評価の責任を外す(到達判定は主任が行い、指導者は事実を報告するだけにする)
そのうえで、月1回はプリセプター本人と10分話す。新人の話ではなく、指導者本人の疲労と困りごとを聞く時間として設ける。主任側の立ち回りは、関連記事「離職者を出さない主任の動き方|3年目の実践」にまとめている。
つまずきやすい場面と、着手前チェックリスト#
制度を始める前に、次の項目を確認する。ひとつでも空欄があると、3か月後に「やったはずなのに何も残っていない」状態になる。
チェックはこの端末に保存されます。印刷して現場に貼る場合はそのまま印刷してください。
よくあるつまずきは4つある。
1つ目は、指導者が複数になること。フロアの都合で日替わりになると、手順の細部が人ごとに変わる。主担当を1人に固定し、公休日の代理だけ副担当を置く。
2つ目は、教えない範囲を決めないこと。範囲を切らないと、3か月で全部を薄く触って何も定着しない。
3つ目は、判定の先送り。4週の判定日を飛ばすと次は8週になり、新人は2か月間フィードバックなしで働くことになる。
4つ目は、記録の消失。面談を口頭だけで済ませると、実地指導でも翌年度の改善でも使えない。5行でよいので紙に残す。
まとめ#
- プリセプター制度が失敗するのは熱意不足ではなく、計画表・面談の型・判定基準の3枚が渡されていないため
- 教える人と判定する人を分ける。同じ人だと新人が「できません」と言えなくなる
- 12週を4段階(見学・一緒に・見守り・単独)に割り、4週・8週・12週で判定する
- 面談は15分。できたこと、こわかった場面、来週やることの順で毎回同じに聞く
- 指導者の受け持ち・兼務・評価責任を管理者が先に減らす。減らせない月は制度を始めない
次の一歩は、今日のうちに12週の計画表を1枚だけ印刷し、次に入職する人の名前を書き込むこと。制度が回るかどうかは、文書が現物としてあるかどうかで決まる。
よくある質問#
プリセプターは何年目の職員が適任ですか。
経験3年以上、かつ現在の職場で1年以上勤務している職員が目安です。ただし年数より、手順を言葉で説明できるかどうかが重要です。作業はできるが説明ができない職員を立てると、新人は見て盗むしかなくなります。
人手が足りず、指導者の業務を減らせません。
その月はプリセプターを立てないほうが安全です。名前だけの指導者を置くと、新人は誰にも聞けず、指導者は責任だけを負います。減らせないなら期間を12週から6週に短縮し、範囲を食事と記録だけに絞る運用へ切り替えてください。
中途採用の経験者にも12週必要ですか。
経験者は手順ではなく、この施設のやり方と利用者ごとの違いを覚える期間になります。1〜4週を2週に圧縮し、記録の書き方と申し送りの型に時間を配分してください。経験者ほど聞きにくさを感じるので、面談の回数は減らさないことをすすめます。
プリセプター制度は処遇改善加算の要件になりますか。
2024年度の改定で一本化された介護職員処遇改善加算では、職場環境等要件のなかに新人指導担当者制度の導入が例示されています(2026-09-01時点)。区分ごとの必要数や上位区分の追加要件は変わるため、算定の可否は最新の厚生労働省通知と指定権者への確認で判断してください。
新人から体調不良や不眠の相談を受けたときは。
指導者が抱え込まないことが原則です。勤務調整は管理者が判断し、心身の不調が続く場合は本人の同意を得たうえで受診をすすめてください。医療的な判断は主治医・かかりつけ医に確認します。
独り立ちの判定はどう決めればよいですか。
勤務日数ではなく到達点で決めます。段階の分け方は、関連記事「介護の新人はいつ独り立ち?管理者が使う5段階の判定表と面談文例」に判定表と面談文例をまとめています。
出典#
- 厚生労働省「新人看護職員研修ガイドライン【改訂版】」(平成26年2月)※プリセプターシップの定義と研修体制の考え方
- 厚生労働省「令和6年度介護報酬改定について」(介護職員処遇改善加算の一本化、職場環境等要件)
- 厚生労働省老健局「介護職員処遇改善加算等に関する基本的考え方並びに事務処理手順及び様式例の提示について」(令和6年度改定に伴う通知)
- 公益財団法人介護労働安定センター「介護労働実態調査」(各年度版)※早期離職の傾向
- 厚生労働省「介護現場における生産性向上の取組を進めるためのガイドライン」(最新改訂版)