「発見時、居室内で転倒されていました。」
事故報告書の1行目が、これで止まっていませんか。
この1文には、いつ・誰が・何を見て・そのあと何をしたのかが、ひとつも入っていません。提出したあとで市町村や家族から「そのとき職員はどこにいたのか」と聞かれ、書いた本人ももう思い出せない。事故報告書でいちばん多いつまずきは、文章力ではなく、出来事を時間の順に並べていないことです。
先に答えだけ書きます。第1報は様式の1から6を埋めて5日以内。原因分析と再発防止策は後から出して構いません。記入例は第4章に3種類あります。
結論:外してはいけないのは3つだけ
- 事実だけを、時間の順に書く(推測・感情・責任論を本文に混ぜない)
- 第1報は、様式の1から6のブロックを埋めて、事故発生後5日以内を目安に出す
- 原因分析は「本人・職員・環境」の3つに分け、再発防止策には評価時期まで書く
この3つは、書き手のセンスの話ではありません。いずれも国の通知と様式そのものに書いてある要件です。
※この記事の「事故報告書」=介護保険施設等が市町村へ提出する、国の標準様式に基づく報告書を指します。施設内で共有するヒヤリハット報告書とは、提出先も目的も別物です。本編約10,428字・記入例3種類・FAQ6問付き。📝
介護の事故報告書の様式は、2024年11月に入れ替わっている
まず前提の確認から。介護保険施設等の事故報告について、厚生労働省老健局は2024年(令和6年)11月29日付で「介護保険施設等における事故の報告様式等について」(老高発1129第1号・老認発1129第1号・老老発1129第1号)を発出しました。同じ通知の中で、それまで使われていた令和3年3月19日付の同名通知は「本日付けで廃止する」と明記されています。
ここは最初に押さえてください。検索して出てくる解説記事や、施設に保存されている様式ファイルが、令和3年版のままになっていることがあります。自施設が使っている様式の日付を、この機会に一度見ておく価値があります。
新様式の変更点は2つです。選択式の項目が「容易にデータ化できるよう」チェックボックス形式になったこと、市町村が独自に集めたい情報を入れる「独自項目追加欄・独自選択肢欄」が付いたこと。事故情報を電子的に集めて分析できるようにするためだと通知に書かれています。
報告する事故の範囲(通知2)
通知は、次の2つを「原則として全て報告すること」としています。
① 死亡に至った事故
② 医師(施設の勤務医、配置医を含む。)の診断を受け投薬、処置等何らかの治療が必要となった事故
そして「その他の事故の報告については、各自治体の取扱いによるものとすること」と続きます。つまり①②以外の線引きは、全国一律ではありません。自施設の保険者(市町村)がどこまで求めているかは、保険者のページで確認する必要があります。ここを国の基準だけで判断すると、報告漏れになります。⚠️
報告の方法と期限(通知4・5)
- 方法は「原則、電子メール等の電磁的方法により行うものとすること」
- 第1報は「少なくとも別紙様式の1から6の項目までについて可能な限り記載し、事故発生後速やかに、遅くとも5日以内を目安に提出すること」
- その後は「状況の変化等必要に応じて、追加の報告を行い、事故の原因分析や再発防止策等については、作成次第報告すること」
ここが実務でいちばん誤解されているところです。5日以内に求められているのは、様式の1から6まで。原因分析(7)と再発防止策(8)は、後から出してよい設計になっています。事故検討委員会の日程が合わないという理由で第1報ごと止めてしまうと、期限だけが過ぎていきます。分析が固まっていなくても、1から6を埋めて先に出す。これが通知どおりの運用です。
対象サービス(通知6)
介護保険施設、認知症対応型共同生活介護、特定施設入居者生活介護、有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅、養護老人ホーム、軽費老人ホームが対象です。その他の居宅サービスについても「可能な限り活用いただきたい」と書かれています。
事故報告書の様式は9ブロック。どこに何を書くかの対応表
新しい様式は、A4で2ページ、9つのブロックに分かれています。第1報でどこまで埋めるかを含めて一覧にします。
| ブロック | 書く内容 | 第1報で必要か |
|---|---|---|
| 1 事故状況 | 第1報/第○報/最終報告の別、提出日、事故状況の程度(入院・死亡・その他)、死亡年月日 | 必要 |
| 2 事業所の概要 | 法人名、事業所(施設)名、事業所番号、サービス種別、所在地 | 必要 |
| 3 対象者 | 氏名・年齢・性別、サービス提供開始日、保険者、住所、要介護度、認知症高齢者の日常生活自立度 | 必要 |
| 4 事故の概要 | 発生日時、発生場所、事故の種別、発生時状況と事故内容の詳細、その他特記すべき事項 | 必要 |
| 5 事故発生時の対応 | 発生時の対応、受診方法、受診先(医療機関名・連絡先)、診断名、診断内容、検査・処置等の概要 | 必要 |
| 6 事故発生後の状況 | 利用者の状況、家族等への報告(続柄・報告年月日)、連絡した関係機関、追加対応の予定 | 必要 |
| 7 事故の原因分析 | 本人要因・職員要因・環境要因の分析 | 作成次第 |
| 8 再発防止策 | 手順変更、環境変更、その他の対応、評価時期および結果 | 作成次第 |
| 9 その他 | 特記すべき事項 | 任意 |
選択肢が決まっている項目(迷ったときの確認用)
チェックボックス形式になったため、書き手が言葉を選ぶ余地はここにはありません。
- 事故の種別:転倒/転落/誤嚥・窒息/異食/誤薬、与薬もれ等/医療処置関連(チューブ抜去等)/不明/その他
- 発生場所:居室(個室)/居室(多床室)/トイレ/廊下/食堂等共用部/浴室・脱衣室/機能訓練室/施設敷地内の建物外/敷地外/その他
- 受診方法:施設内の医師(配置医含む)が対応/受診(外来・往診)/救急搬送/その他
- 診断内容:切傷・擦過傷/打撲・捻挫・脱臼/骨折(部位)/その他
様式には「該当する項目が複数ある場合は全て選択すること」と注記されています。食事中にむせ込み、そのあと椅子から転落した、というような場面で、片方だけ選んで済ませないという意味です。迷ったら両方にチェックを入れます。
様式の現物はどこにあるか
様式そのものは、通知本体のPDFに別紙として付いています(介護保険最新情報Vol.1332。URLは記事末尾の出典欄)。ただし実務の優先順位は、保険者の指定様式が先です。「自治体名+介護 事故報告書 様式」で保険者のページを先に見て、指定がなければ国の別紙様式を使います。
事故報告書を時系列で書く型(4つの時間帯に割る)
9ブロックのうち、書き手が固まるのは4番の「発生時状況、事故内容の詳細」です。自由記載欄なので、どこから書くか決まっていません。ここは4つの時間帯に割ると、誰が書いても同じ精度になります。
【1】発見前(最後に確認した時点)
何時に、誰が、その人をどこで、どんな状態で見たか
【2】発見時(事故を見つけた瞬間)
何時に、誰が、どこで、何を見たか。姿勢・位置・周囲の物まで
【3】初動(発見から報告まで)
誰を呼んだか、何を観察したか、何をしたか、何時に誰へ報告したか
【4】その後(受診・連絡)
受診方法、診断、家族への連絡時刻と相手
いちばん抜けるのが【1】です。「最後にいつ見たか」を書いていない報告書は、発見までの空白時間が何時間あったのか読み取れません。
1文の作り方
1文の型は「時刻+主語+観察した事実(または実施したこと)」です。
例:20:15 職員A(介護福祉士)が居室を訪室し、ベッド右側の床に右側臥位で臥床しているBさんを発見。
主語を必ず入れるのは、「発見した」「対応した」の主体が誰なのか分からない報告書が非常に多いからです。書いた本人には自明でも、読むのは施設の外の人です。
【貼り付け用】そのまま埋められる型
__:__ 職員( )が、(場所)で、(対象者)が(状態)でいるのを確認。←最後に確認した時点
__:__ 職員( )が、(場所)で、(姿勢・位置・周囲の物)を発見。
__:__ 職員( )が(誰)を呼び、(誰)が(誰)へ連絡。
__:__ (観察した事実)。本人から『 』と発言あり。目撃者なし/あり。
__:__ 受診方法( )。診断( )。
__:__ (続柄)へ電話連絡。伝えた内容( )。
明日から変えるのは1行目だけで足ります。巡視のたびに「何時に、どこで、どんな状態だったか」をメモに残しておくと、この1行目が埋まります。
事故報告書の記入例3種類(転倒・誤薬・誤嚥)
以下は、様式の書き方を示すための架空の記載例です。実在の事故ではありません。
記入例1:転倒(発見時に職員が居合わせていない)
× よくないNG例
「居室で転倒されていた。立ち上がろうとして転倒したものと思われる。すぐに看護師に報告し、様子を見た。」
○ 書き直したOK例
「19:40 職員A(介護職員)が夕食後の居室誘導を行い、Bさんがベッド端座位でテレビを視聴しているのを確認。
20:15 職員Aが訪室し、ベッド右側の床に右側臥位で臥床しているBさんを発見。床頭台の下に眼鏡が落ちていた。ナースコールは枕元に固定されたままだった。
20:16 職員Aがその場を離れず、大声で職員Bを呼び、職員Bが看護職員Cへ連絡。
20:18 看護職員Cが到着。意識清明、氏名と場所の応答あり。右前額部に約2cmの発赤、右手背に擦過傷を確認。四肢の自動運動あり。本人から『トイレに行こうとして、いつのまにか床にいた』と発言あり。転倒の瞬間を目撃した職員はおらず、受傷機転は不明。
20:35 看護職員Cが配置医へ電話報告。20:50 指示により救急搬送。
21:40 ○○病院にて頭部CT施行、頭蓋内出血なし。右橈骨遠位端骨折の診断。シーネ固定。
22:10 職員A(またはリーダーD)が長女Eへ電話連絡。搬送先と診断内容を伝達。」
OK例は、時刻と主語と観察した事実しか書いていません。「思われる」「様子を見た」が1つも入っていない点に注目してください。
記入例2:誤薬
× よくないNG例
「配薬を間違えてしまい、他の利用者の薬を飲ませてしまった。すぐに気づいて対応した。」
○ 書き直したOK例
「08:05 職員Aが朝食後薬を配薬。Bさん(1番テーブル)に、Cさん(同テーブル)の薬包を手渡し、内服を確認。
08:12 職員Aが空の薬包の氏名を確認した際、Cさんの氏名であることに気づく。
08:13 職員Aが看護職員Dへ報告。誤薬の内容は降圧剤1剤(薬剤名・規格は別紙のとおり)。
08:20 看護職員Dが配置医へ電話報告。指示された項目・間隔でバイタル測定と観察を実施(指示内容と測定値は経過記録に記載)。
09:05 職員Bが長女Eへ電話連絡。誤薬の内容と観察方針を伝達。
※配薬時の氏名確認は、薬包の氏名を声に出して読み上げる手順としていたが、当日の実施者は読み上げを行っていなかった。」
最後の1行は、原因分析(7)につながる事実です。ここに「注意不足だった」と書かないのがポイントです。書くのは、決められていた手順と、実際にやったことの差だけです。
なお、観察の項目と間隔は医師の指示によります。この記事で具体的な数値を示さないのは、記事の型が主治医の指示より優先される事態を避けるためです。報告書には「指示された内容」と「実際に測った値」を書きます。
記入例3:誤嚥(食事中)
× よくないNG例
「食事中にむせ込みがあり、窒息しかけたが、すぐに対応したので大事には至らなかった。」
○ 書き直したOK例
「12:20 職員Aが食堂にてBさんの食事介助中、主菜(きざみ食)を摂取後にむせ込みが出現。
12:20 Bさんの顔色不良、発声困難を確認。職員Aが同席の職員Bへ声をかけ、職員Bが看護職員Cを呼びに向かう。
12:21 職員Aが施設の窒息時対応手順(手順書○番)を実施。実施した行為と開始時刻を記載。
12:22 看護職員Cが到着し、以後の対応と観察を引き継ぐ。SpO2・呼吸状態を測定(数値は経過記録に記載)。
12:35 看護職員Cが配置医へ電話報告。指示により経過観察。
13:10 職員Aが次女Dへ電話連絡。発生時の状況と現在の状態を伝達。
※当日の食事形態はきざみ食。前日のカンファレンスで食事形態の変更は決定されていない。」
この記事では手技の内容そのものは扱いません。報告書に書くのは、自施設の手順書のどの手順を、誰が、何時に実施したかです。手順名と時刻で書きます。「対応した」だけで済ませると、次の章のNG例と同じものになります。
介護職が書くのは、観察した事実と、誰にいつ引き継いだかまでです。医学的な評価や処置の適否の判断は、看護職員と医師の領域になります。
事故報告書に書いてはいけない5つの表現
① 推測を事実のように書く
「立ち上がろうとして転倒したと思われる」。見ていないなら書けません。書くのは、最後に確認した時点と発見時の状況の2つ。そのうえで「転倒の瞬間を目撃した職員はおらず、受傷機転は不明」と明記します。「不明」と書くのは手抜きではなく、正確さです。
② 感情・人物評を書く
「いつも落ち着かない方で」「危険な行動が多く」。読んだ人には、施設が本人のせいにしているように読めます。行動の事実(何時に、どこで、何をしたか)に置き換えます。
③ 責任の所在を本文に書く
「職員が目を離したため」。書く場所が違います。人員配置や見守り体制は、原因分析(7)の職員要因として整理する項目です。事故の概要欄に責任論を混ぜると、事実の記録として使えなくなります。
④ 伝聞と観察を混ぜる
「本人が転んだと言っている」ではなく、「本人から『歩こうとしてしりもちをついた』と発言あり」。本人の言葉は、観察した事実とは別の情報です。カギ括弧で区別して残します。
⑤ 婉曲表現でごまかす
「様子を見た」「適宜対応した」「厳重に注意した」。何分間、何を、誰が見たのか分かりません。数字と行為に開きます。
この5つより重いのが、後から書き足したのに時刻を遡らせることです。追記が必要なときは「○月○日追記」として、追記だと分かる形で残します。記録の信頼性は、追記の有無ではなく、追記が見えるかどうかで決まります。
事故報告書の原因分析(7)と再発防止策(8)の書き方
様式は、原因分析の欄に「本人要因、職員要因、環境要因の分析」と印字されています。この3つに割ることが、様式そのものから求められています。3分割すると、「職員の注意不足でした」で終わる分析にはなりません。
- 本人要因:疾患、内服内容、ADLの変化、その日の体調、行動のパターン、視力・聴力
- 職員要因:その時間帯の人員配置と業務量、情報共有の経路、手順の有無と周知状況、経験年数
- 環境要因:床材と滑り、照明、履物、家具の配置、ナースコールの位置、音、動線
再発防止策の欄には「手順変更、環境変更、その他の対応、再発防止策の評価時期および結果等」と印字されています。つまり「注意する」「周知徹底する」は、様式が求めている形式を満たしていません。求められているのは次の2つです。
- 誰が、いつまでに、何を変えるのか
- その効果を、いつ、どうやって確認するのか
書き換えの例
× 職員間で情報共有を徹底する
○ 9月末までに、Bさんの居室の動線から可動式オーバーテーブルを撤去し、ナースコールをベッド柵に固定式で設置する(担当:フロアリーダー)。9月末と10月末のフロア会議で、同室での転倒・ヒヤリハット件数を確認し、結果を事故検討委員会へ報告する。
× 誤薬がないよう確認を強化する
○ 8月20日から、配薬時の氏名読み上げをダブルチェック手順に組み込み、チェック実施者の署名欄を配薬表に追加する(担当:ユニットリーダー)。9月末の委員会で、1か月間の配薬エラー報告件数を確認する。
評価時期を書く欄がある、という一点が、この様式の設計思想です。対策を書いて終わりではなく、効いたかどうかを後で見る前提になっています。📌
事故報告書とヒヤリハット報告書の違い
同じ「報告書」でも、この2つは別物です。混ざっている施設が少なくありません。
| 項目 | 事故報告書 | ヒヤリハット報告書 |
|---|---|---|
| 提出先 | 市町村(外部) | 施設内 |
| 目的 | 事実の記録と再発防止、行政への報告 | 事故の予防、情報の共有 |
| 対象 | 死亡に至った事故、医師の診断を受け治療が必要となった事故は原則全件。その他は自治体の取扱い | 実害に至らなかった出来事 |
| 様式 | 国の標準様式(または保険者の指定様式) | 施設ごとの様式 |
| 期限 | 第1報は5日以内が目安 | 施設内のルール |
決定的な違いは、事故報告書には外部への提出があることです。読者が施設の中の人だけではありません。だからこそ、推測と事実の区別が厳しく効いてきます。
ヒヤリハット報告書の書き方は、『ヒヤリハット報告書の書き方|責められない書き方と記入例』(https://andmimics.com/hiyarihatto-houkoku-kakikata/ )にまとめています。
事故報告書を提出したあとにやること
続報と最終報告
様式1のブロックには、第1報/第○報/最終報告のチェック欄があります。通知は「状況の変化等必要に応じて、追加の報告を行い」としています。第1報の内容を書き換えて出し直すのではなく、続報として積み上げる方が、あとから経緯を追えます。原因分析の結論が変わった場合も同じで、続報として更新します。
記録の保存
以下は特別養護老人ホーム(指定介護老人福祉施設)の場合です。グループホーム・特定施設・有料老人ホーム等は、それぞれの基準省令に同趣旨の規定があり、条番号が異なります。自施設の種別の省令を確認してください。
指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第39号)第35条は、事故が発生した場合に、速やかに市町村や家族等へ連絡するとともに「事故の状況及び事故に際して採った処置について記録しなければならない」と定めています。
そして第37条(記録の整備)は、その記録を「その完結の日から二年間」保存すると定めています。保存対象には、施設サービス計画や身体的拘束等の記録などと並んで、事故の状況および採った処置の記録が挙げられています。
ただし、運営基準は各自治体の条例に委任されているため、保存期間が条例で上乗せされている場合があります。自施設の運営規程と、指定権者の条例を確認してください。
よくある質問(FAQ)
Q1. 家族への連絡と、市町村への報告は、どちらが先ですか。
A. 省令第35条は、事故が発生した場合に速やかに市町村と入所者の家族等へ連絡を行うと定めていますが、順序は指定していません。実務では、家族への連絡は発生直後、市町村への様式提出は5日以内を目安、という時間差になります。連絡した時刻と相手の続柄は様式6に記入欄があるので、電話した時点でメモしておくと後の作業が短くなります。
Q2. 骨折しているかどうか分からない段階でも、報告対象になりますか。
A. 国の報告対象は「医師の診断を受け投薬、処置等何らかの治療が必要となった事故」です。受診が必要かどうかを介護職が判断するのではなく、観察した事実を看護職員や配置医に伝え、その判断と結果(診断名・処置)を様式5に記入します。診断がつく前の段階でも、自治体が独自に報告を求めている場合があるため、保険者の取扱いを先に確認しておきます。
Q3. 発見時に職員が居合わせていない転倒は、原因の欄に何と書けばよいですか。
A. 「受傷機転は不明」と書いて構いません。見ていないのに「ベッドから降りようとして」と書く方が問題になります。最後に確認した時刻と状態、発見時の状況の2点を正確に書き、不明な部分は不明と明記します。そのうえで、原因分析(7)では本人要因・環境要因から検討できる範囲を書きます。
Q4. 「5日以内」に土日は含まれますか。
A. 通知の文言は「事故発生後速やかに、遅くとも5日以内を目安に提出すること」だけで、土日の扱いには触れていません。したがって取扱いは自治体によります。原則は「速やかに」ですから、5日を上限として使い切る運用は避けます。
Q5. 誤薬で、体調に変化が出なかった場合も報告しますか。
A. Q2と同じ分かれ目です。治療が必要になったかどうかで判断し、当たらない場合は保険者の取扱いを確認します。ただし誤薬は同じ手順の穴から繰り返し起きるため、国への報告対象外でも、施設内のヒヤリハットとして残しておくと次の分析に使えます。
Q6. 自治体独自の様式と、国の様式のどちらを使いますか。
A. 通知は「可能な限り別紙様式を使用すること」とし、市町村が独自に求めている事項は「独自項目追加欄・独自選択肢欄を活用して情報収集を行うこと」としています。既存の自治体様式の使用を妨げるものではないとしつつ、その場合も「別紙様式の項目を含めること」と書かれています。実務の優先順位は、保険者の指定様式が先、指定がなければ国の別紙様式です。
要点サマリー
- 国の様式は2024年11月29日付通知で入れ替わり、令和3年3月19日付の旧通知は廃止されている。自施設の様式の日付をまず確認する。
- 報告対象は「死亡に至った事故」「医師の診断を受け投薬、処置等何らかの治療が必要となった事故」が原則全件。それ以外の線引きは自治体の取扱いによる。
- 第1報は様式の1から6を埋めて5日以内が目安。原因分析(7)と再発防止策(8)は作成次第でよい。分析待ちで第1報を止めない。
- 事故の概要欄は「発見前・発見時・初動・その後」の4区切りで、時刻+主語+事実の1文を積む。推測・感情・責任論は本文に入れない。
- 原因分析は本人・職員・環境の3要因に割る。再発防止策には担当者・期限・評価時期まで書く。
あわせて読む
- 記録そのものの書き方でつまずいている場合:『介護記録の書き方【そのまま使える例文40】主観と客観の分け方』(https://andmimics.com/kaigo-kiroku-kakikata-reibun/ )
- 事故に至らなかった出来事の書き方:『ヒヤリハット報告書の書き方|責められない書き方と記入例』(https://andmimics.com/hiyarihatto-houkoku-kakikata/ )
- 看護職員への報告が伝わらないと感じている場合:note『「なんとなく変」を看護師に伝える技術:SBARで、伝わらない申し送りを終わらせる』(無料・https://note.com/logical_kaigo/n/n2058844034f1 )
次の一歩
この記事で扱ったのは、起きたあとの書き方です。記入例1と3で、報告書の質を決めていたのは文章力ではなく、発見から報告までの数分に何を観察したかでした。
その数分を個人の勘ではなく手順にする方法は、有料note『「気づく人」で終わらない:急変予兆の観察と初動を、仕組みに変える完全実装ガイド』(¥980・https://note.com/logical_kaigo/n/n7a8130c3d69b )にまとめています。観察項目の一覧、看護職員への報告文例、初動の手順書が入っています。
出典(一次ソース)
1. 厚生労働省老健局高齢者支援課長・認知症施策地域介護推進課長・老人保健課長「介護保険施設等における事故の報告様式等について」(令和6年11月29日 老高発1129第1号・老認発1129第1号・老老発1129第1号/介護保険最新情報Vol.1332)
https://www.wam.go.jp/gyoseiShiryou-files/documents/2024/1202092706494/ksvol.1332.pdf
※報告対象・報告方法・報告期限・対象サービス・別紙様式の全項目は、本通知の原文とその別紙様式から直接確認した。令和3年3月19日付通知の廃止も本通知に明記されている。
2. 厚生労働省「介護保険最新情報Vol.943」(令和3年3月19日・旧通知。2024年11月29日付で廃止)
https://www.mhlw.go.jp/content/000763797.pdf
3. 指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第39号)第35条(事故発生の防止及び発生時の対応)、第37条(記録の整備)
https://laws.e-gov.go.jp/law/411M50000100039
※記録義務および「その完結の日から二年間」の保存期間は、同省令の条文から確認した。
執筆:現役の施設ケアマネジャー兼生活相談員。特別養護老人ホーム等でケアプラン作成・モニタリング・記録の点検と職員研修に携わる立場から、現場目線で実務を解説しています。制度・法令の記述は公的資料に基づき、本文末に出典を明記します。