処遇改善加算で自分の給料がいくら上がるか。職種別の金額を国の資料で探しても、どこにも載っていない。国が決めているのは事業所に入る総額だけで、誰にいくら配るかは事業所が決めるからだ。同じ加算Iの特養でも、毎月の手当が増える事業所と、賞与に溶けて気づかれない事業所が並んで存在する。この記事では、自分の取り分を計算する手順と、事業所に確認する文例をそのまま渡す。2026-09-02時点の制度に基づく。
この記事の内容
結論: 国が決めるのは総額、職種別の配分は事業所が決める#
結論から書く。介護職員等処遇改善加算は、事業所の介護報酬の総単位数に加算率を掛けた額が事業所に入る仕組みで、職種ごとの金額は制度上どこにも定められていない。
しかも2024年6月の一本化で、配分の縛りそのものが消えた。かつての特定処遇改善加算には、経験・技能のある介護職員の賃金改善額を他の介護職員の2倍以上にする、といったグループごとのルールがあった。これが廃止され、いまは事業所が配分を自由に設計できる。
自由ということは、聞かないと分からないということだ。私は施設ケアマネとして毎年4月に処遇改善計画書の職種別配分欄に目を通しているが、そこに書かれた比率は法人ごとにまったく違う。同じ市内の特養で、介護職に9割寄せる事業所と、全職種へほぼ均等に配る事業所が同時にある。
つまり「職種別にいくら上がるか」の答えを持っているのは、厚労省ではなく自分の事業所の計画書だ。ここを取り違えている限り、何年検索しても答えは出てこない。
2026-09-02時点の制度の姿: 加算I〜IVは要件の数で決まる#
加算は4区分あり、区分が上がるほど加算率が高くなる。区分を分けているのは、次の要件をどこまで満たすかだ。
- キャリアパス要件I: 職位・職責に応じた任用要件と賃金体系を整備し、全職員に周知する
- キャリアパス要件II: 研修の実施、または研修機会の確保
- キャリアパス要件III: 経験や資格に応じて昇給する仕組みの整備
- キャリアパス要件IV: 賃金改善後の年額賃金が440万円以上の者を1人以上置く
- キャリアパス要件V: 介護福祉士等の配置に関する要件
- 職場環境等要件: 区分ごとに定められた職場環境改善の取組
- 月額賃金改善要件: 加算IV相当額の一定割合以上を、賞与ではなく月額の賃金改善に充てる
| 区分 | 要件の水準 | 訪問介護 | 特養 |
|---|---|---|---|
| 加算IV | 基本の要件を満たす | 14.5% | 9.0% |
| 加算III | 加算IVに要件を1つ上乗せ | 18.2% | 11.3% |
| 加算II | 加算IIIにさらに上乗せ | 22.4% | 13.6% |
| 加算I | 5つのキャリアパス要件を全て満たす | 24.5% | 14.0% |
加算率はサービス種別ごとに告示で定められている。表の数値は訪問介護と介護老人福祉施設(特養)の例で、通所介護や介護老人保健施設は別の率になる。各区分と要件の正確な対応は、厚生労働省の事務処理手順通知の別紙に一覧で載っている。
2026年6月時点の率を確かめる3つの一次資料#
処遇改善加算は、計画書の提出(年度当初)と実績報告(年度終了後)で1年が回る。加算率や要件に見直しが入る場合は、必ず通知番号つきで公表される。ネット記事の数字を根拠にしないほうがいい。この記事も含めてだ。自分に適用されている率は、次の3つで確認する。
- 自分の事業所が提出した処遇改善計画書の写し。サービス種別・区分・見込み額・職種別配分がすべて書いてある
- 厚生労働省の「介護保険最新情報」。改定や取扱いの変更はここに通知本文が載る
- 都道府県・市町村の集団指導資料。自治体が加算率と提出期限を一覧化していることが多い
注意 事業所の加算区分は年度で変わる。要件を満たせなくなれば区分は下がり、手当も連動して下がる。去年の明細を今年の前提にしないこと。
自分の取り分を5分で計算する手順#
- 直近3か月の給与明細と、事業所の処遇改善計画書の写しを手元に置く
- 事業所のサービス種別と加算区分(I〜IV)を確認し、該当する加算率を調べる
- 事業所の1か月あたりの介護報酬の総単位数を確認する。計画書の見込み額欄から逆算できる場合も多い
- 加算額を出す。総単位数 × 加算率 × 地域単価(1単位あたり10円から11.40円)
- 計画書の職種別配分欄で、自分の職種への配分割合を確認する
- 加算額 × 自職種への配分割合 ÷ その職種の常勤換算人数。これが一人あたりの月額原資になる
特養で計算してみる。加算I(14.0%)、月間の総単位数250万単位、地域単価10.00円とする。
- 加算の単位数: 2,500,000単位 × 14.0% = 350,000単位
- 加算額: 350,000単位 × 10.00円 = 350万円(月額)
- 介護職への配分が80%なら 280万円
- 介護職の常勤換算が40人なら、一人あたり月7万円
ただしこの原資には、社会保険料の事業主負担増加分を含めてよい扱いがある。手当として給与明細に載るのは、そこから15%前後を引いた額が目安になる。
注意 この月6万円前後は「これから増える額」ではない。すでに支給されている処遇改善手当や、基本給に組み込み済みの分を含んだ総額だ。ここを誤解したまま上司に詰め寄ると話がかみ合わない。
計算に使う様式と、職種別配分を書き出すための一覧シートは、自社noteで無料配布している。明細の項目名を転記するだけで、自分の取り分と支給形態が1枚に並ぶ。
職種別に分かれる3つの配分方式#
配分ルールが事業所裁量になったことで、実際の配り方は大きく3つに分かれている。どれを採っているかで、同じ加算額でも自分の手取りは変わる。
| 配分方式 | 配り方 | 起きること |
|---|---|---|
| 一律定額 | 全職員に同額の手当 | 短時間勤務者や他職種が相対的に厚くなる |
| 職種別定率 | 職種ごとに配分割合を設定 | 介護職に厚く、事務・調理は薄いか対象外 |
| 資格経験別 | 資格と勤続年数で傾斜 | ベテランに厚く、1〜3年目が薄くなる |
介護職以外への配分は制度上認められている。事務職員、調理員、看護職員、リハビリ職も対象にできる。ただし対象にするかどうかは事業所が決めるので、「うちは介護職だけ」も「全職種に配る」もどちらも適法だ。
若手が薄くなる資格経験別の設計は、3年目前後の離職と直結しやすい。配分の話は定着の話でもある(関連記事: 離職者を出さない主任の動き方|3年目の実践)。
配分の根拠を何度聞いても示されない事業所は、賃金体系そのものが整っていない可能性がある。キャリアパス要件Iは賃金体系の整備と周知を求めているので、説明できない状態は加算の前提を欠いている。次の職場を探す判断材料として、求人票の処遇改善手当の記載を見比べておくのは現実的な手だ。
事業所には「額」ではなく「配分の根拠」を聞く#
聞き方を変えるだけで、返ってくる情報が変わる。金額だけを聞くと「決まっていない」で終わる。
処遇改善加算って、私はいくらもらえるんですか。
今年度の処遇改善計画書で、介護職への配分割合と一人あたりの見込み額はどうなっていますか。給与明細のどの項目に反映されているかも教えてください。
そのまま使える文例を3本置く。場面に合うものを1本だけコピーして使えばいい。
- (口頭・直属の上司へ) 今年度の処遇改善計画書について、介護職への配分割合と一人あたりの見込み額を確認させてください。給与明細のどの項目に反映されているかも教えていただけますか。
- (メール・法人本部へ) お疲れさまです。○○事業所の△△です。今年度の介護職員等処遇改善加算の計画書について、職種別の配分割合と、賃金改善額の内訳(基本給・手当・賞与の別)を確認させてください。キャリアパス要件Iの賃金体系の周知に関わる部分と認識しています。ご都合のよいときにご教示ください。
- (面談・評価の場で) 昨年度の実績報告では、介護職一人あたりの賃金改善額はいくらになりましたか。今年度の見込みと、私の等級で受け取る額の考え方を確認したいです。
聞く前に埋めるチェックリスト#
手ぶらで聞くと「そのうち説明します」で流れる。次の6つを埋めてから聞くと、話が1回で終わる。
チェックはこの端末に保存されます。印刷して現場に貼る場合はそのまま印刷してください。
つまずきやすい注意点#
加算の話で現場がもめる原因は、だいたい次の4つに集約される。
第一に、加算額と手取りの増加額を同じものとして扱うこと。加算額は原資の総額で、そこには法定福利費の事業主負担分も、すでに支給済みの手当も含まれる。
第二に、賞与への上乗せで配られている場合。年間の支給総額は増えていても、毎月の明細は前年と同じに見える。賞与明細まで確認しないと結論が出ない。
第三に、基本給を下げて処遇改善手当を増やす操作。総額が変わらないので改善になっていない。前年度の明細と並べれば一目で分かる。
第四に、「計画書は見せられない」という回答。賃金体系の整備と全職員への周知はキャリアパス要件Iそのものなので、周知しない運用は加算の前提と矛盾する。丁寧に、しかし引かずに確認していい。
よくある質問#
2026年6月の改定で、私の給料は具体的にいくら上がりますか。
記事や人づての数字では答えが出ません。金額を決めるのは、事業所のサービス種別と加算区分、そして職種別の配分割合の3つです。この記事の計算手順で自分の事業所の数字を入れ、加算率は厚生労働省の介護保険最新情報か自治体の集団指導資料で確認してください。
事務員や調理員も対象になりますか。
対象にできます。介護職以外の職員へ配分することは制度上認められています。ただし対象にするかどうかは事業所の判断なので、計画書の職種別配分欄を見るまで分かりません。
計画書を見せてもらえません。どうすればよいですか。
まず賃金規程と就業規則の該当条文の開示を求めてください。賃金体系の整備と周知はキャリアパス要件I の内容です。それでも説明がない場合は、法人本部または加算を届け出ている指定権者(都道府県または市町村)の介護保険担当窓口に取扱いを確認できます。
加算がついているのに手当が増えていません。
3つの可能性があります。すでに基本給や既存手当に組み込まれている、賞与でまとめて支給されている、加算区分が前年度より下がっている、のいずれかです。直近3か月の明細と昨年の同月分、賞与明細を並べて確認してください。
パートや派遣でも対象になりますか。
パート・非常勤は事業所に雇用されている職員なので対象にできます。一方、派遣スタッフは派遣元との雇用契約なので、派遣先の加算から直接支給する形にはなりません。派遣料金を通じた処遇改善が行われている場合があるため、確認先は派遣元になります。
まとめ#
- 国が決めるのは事業所に入る総額(総単位数 × 加算率)で、職種別の金額は決めていない
- 2024年6月の一本化で職種間の配分ルールが廃止され、配分は完全に事業所の設計になった
- 自分の取り分は、加算額 × 自職種への配分割合 ÷ その職種の常勤換算人数で概算できる
- 加算額と手取りの増加額は別物。すでに支給されている分と法定福利費の事業主負担分を含む
- 加算率と要件は、事業所の計画書・介護保険最新情報・自治体の集団指導資料の3つで確認する
次の一歩は、明細を探すことではなく計画書を見ることだ。今週の面談か申し送りの後に、この記事の文例1をそのまま使って一言確認してほしい。金額ではなく配分割合を聞く。それだけで、来年度の自分の取り分が予測できるようになる。
出典#
- 厚生労働省「令和6年度介護報酬改定について」(令和6年)
- 厚生労働省「介護職員等処遇改善加算等に関する基本的考え方並びに事務処理手順及び様式例の提示について」(老発通知、令和6年3月)
- 厚生労働省「介護保険最新情報」各号(加算率・要件・様式の改正通知)
- 厚生労働省「指定居宅サービスに要する費用の額の算定に関する基準」(告示)
- 独立行政法人福祉医療機構 WAM NET「介護保険最新情報」掲載資料
- 各都道府県・市町村が公表する介護給付費算定に係る体制等の届出および集団指導資料