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介護記録のAI活用|個人情報を守る安全な使い方と導入9チェック

約9分で読めます2026-09-21 更新スキル育成
この記事の要点

介護記録にAIを使ってよいかどうかは、AIの性能では決まらない。契約と同意の2つで決まる。結論を先に書く。個人が特定できる情報を、事業所として契約していないAIに入力してはいけない。介護記録は病歴を含む要配慮個人情報で、本人の同意なく外へ出すことが法律で制限されているからだ。逆にこの2つが揃えば、記録の下書き作成にAIを使う道は開く。線引きと、明日から使える手順をまとめた。制度は2026-09-21時点のもので書いている。

この記事の内容

介護記録のAI活用は3つの型に分かれる。危険なのは1つだけ#

現場で見かける使い方を分けると3つになる。同じ「AIで記録」でも危険度はまったく違う。

使い方契約者個人名判定
個人スマホの無料AI職員個人入力不可使わない
法人契約のAI事業所条件つき準備すれば可
介護ソフト内蔵AI事業所入力可最も安全
介護記録のAI活用は3つの型に分かれる。危険なのは1つだけ

1つ目が危ない理由は、AIそのものではない。事業所が管理していない道具に、利用者の病歴が流れ込む点にある。入力した文章がどこに保存され、いつまで残り、誰が見るのかを事業所が誰にも説明できない。事故が起きた日、この一点で説明責任が崩れる。

結論

結論として、避けるべきなのは「誰の管理下にもない道具に、誰かの病歴を打ち込む」という組み合わせだけだ。AIを一律に禁止する必要はない。

私は施設のケアマネとして書類に追われる側なので、記録の下書きをAIに作らせる発想そのものには賛成している。止めたいのは順番を飛ばした導入のほうだ。

介護ソフト内蔵型がいちばん安全な理由#

記録ソフトに組み込まれたAIは、既存の権限管理と保存の仕組みの中で動く。誰がいつ何を書き換えたかが残り、退職者のアクセスも止められる。

契約上の整理も1段やさしい。事業所が業務の一部を任せる形なので、個人情報保護法では第三者提供 (第27条) ではなく委託 (第27条第5項第1号) として扱える。本人同意の論点が1つ減る。ただし委託先を監督する義務 (第25条) は事業所側に残る。契約して終わりにはならない。

介護記録は要配慮個人情報。ふつうの個人情報より1段階厳しい#

個人情報保護法第2条第3項は、病歴や心身の機能の障害を要配慮個人情報と定めている。介護記録はほぼ必ずこれに当たる。служ

扱いが厳しくなる点は2つある。取得には原則として本人の同意が必要になること (第20条第2項)。そして、本人が拒まなければ渡してよいというオプトアウトの仕組みが使えないこと (第27条第2項ただし書) だ。

個人情報保護委員会は令和5年6月に、生成AIサービスの利用について注意喚起を出している。要旨は、利用目的の範囲を超える個人情報を入力しないこと、要配慮個人情報を含む内容を本人の同意なく入力しないこと、の2点だ。

「名前を消したから大丈夫」がなぜ通らないのか#

この記事でいちばん伝えたい判断がここにある。

法律上の個人情報は、その文章だけで名前が分かるかどうかでは決まらない。他の情報と容易に照合でき、それにより特定の個人を識別できるものも含む (法第2条第1項第1号)。

「92歳女性、3階、大腿骨頸部骨折後、先月から車椅子」。定員50人の施設で、これを読んだ職員が誰か分からないことはまずない。名前は1文字も書かれていないのに、である。

ここは間違えやすい

注意。匿名化とは、読んだ人が特定できないことではなく、照合しても特定できないことを指す。年齢・性別・階・疾患・時期を4つ重ねた時点で成立しなくなる。

だから見る順番は決まっている。①契約 ②入力する情報 ③出力の検証、の順だ。逆から見ると「どこまでぼかせば貼れるか」という発想になり、必ずどこかで踏み外す。手を動かす前に、契約書の名義を先に見る。

導入前に確認する9項目チェックリスト#

管理者と記録担当が導入前に潰す項目を並べた。全部にチェックが付くまで職員に開放しない。

導入前に確認する9項目チェックリスト0 / 9

チェックはこの端末に保存されます。印刷して現場に貼る場合はそのまま印刷してください。

4つ目は見落としが多い。外国にある第三者への提供は法第28条の対象で、委託先が外国にある場合も含まれる。本人の同意を取るか、基準に適合する体制の整備と情報提供が必要になる。クラウド事業者が個人データを取り扱わないと契約で定められている場合は提供に当たらないという整理もあるが、入力した文章を事業者側が扱う設計のサービスには当てはめにくい。契約書の該当条項を読むまで、当てはまるかどうかを決めないこと。

2つ目も同様に紙で確かめる。無料プランと法人プランは、画面が同じでもデータの扱いが違うことがある。

AIで記録の下書きを作る5手順#

法人契約と説明が済んだ事業所向けの実務手順を書く。

  1. 入力してよい情報を決める。氏名・生年月日・居室番号・家族の氏名・固有の傷病名は外す
  2. 置き換え表を使って匿名化する
  3. AIに整えさせる。事実を足すことを禁じる指示を必ず入れる
  4. 出力を1行ずつ元のメモと照合する。時刻・数値・観察内容が一致するか見る
  5. 記録システムへ転記し、AI側の入力履歴を削除する

匿名化の置き換え表#

元の情報置き換え
氏名利用者A
生年月日80代
居室番号削除
家族の氏名長男
施設名当事業所
主治医名主治医
AIで記録の下書きを作る5手順

置き換えのビフォーとアフター#

ビフォー

田中ハナ様(92歳・305号室)、10時20分に居室で転倒。長男の田中一郎さんへ電話連絡。

アフター

利用者A(80代女性)、10時20分に居室で転倒。長男へ電話連絡。

年齢を実数のまま残さない。92歳と305号室が揃うと、氏名を消した意味がなくなる。

そのまま使えるプロンプト文例#

AIで記録の下書きを作る5手順3本
  1. 次のメモを介護記録の文体に整えてください。事実の追加と推測の追加はしないでください。メモに書かれていない項目は「記載なし」と返してください。メモ:(ここに匿名化したメモを貼る)
  2. 次の記録を、時刻・観察した事実・実施した対応・次に確認する基準の4点に並べ替えてください。新しい情報は足さないでください。
  3. 次の記録で、事実と職員の推測が混ざっている箇所を指摘してください。書き換えはせず、該当する行だけ挙げてください。

3本目は記録の質を上げる使い方だ。個人が特定できる情報を入れずに済む場面も多く、夜勤明けの見直しに向く。

利用者・家族への説明文と職員向け通達の文例#

結論

重要事項説明書や個人情報使用同意書に追記する文の例を挙げる。事業所の実態に合わせて直して使う。

AIで記録の下書きを作る5手順2本
  1. 当事業所では、記録作成の補助として文章作成支援サービス(AI)を利用することがあります。利用に際し、お名前・生年月日・居室番号など個人を特定できる情報は入力しません。作成された文章は職員が内容を確認したうえで記録として確定します。ご不明な点やご希望があれば、生活相談員までお申し出ください。
  2. (職員向け通達) 介護記録へのAI利用は、事業所が契約したサービスに限ります。個人のアカウントおよび無料サービスの業務利用は禁止します。入力してよい情報は別紙の置き換え表に従ってください。判断に迷った場合は入力せず、記録担当に相談してください。

職員向けの通達は口頭で終わらせない。紙にして配ると、辞めた人と新しく来た人の間で解釈が揺れなくなる。新人への落とし込み方は関連記事: 介護の新人教育マニュアル作り方7手順|テンプレ項目20と義務研修 にまとめている。

漏らしてしまった時の初動。要配慮個人情報は1人分でも報告対象#

事故は起きる。起きた後の速さで結果が変わる。

個人情報保護法第26条と同法施行規則第7条により、要配慮個人情報が含まれる漏えい等は、件数にかかわらず個人情報保護委員会への報告と本人への通知が必要になる。1人分でも対象で、漏えいのおそれがある段階でも対象になる。

期限は2段階に分かれている。

区分期限出す内容
速報3〜5日以内把握している範囲
確報30日以内原因と再発防止策
確報(不正)60日以内不正アクセス等の場合
漏らしてしまった時の初動。要配慮個人情報は1人分でも報告対象
  1. 入力した端末・アカウント・時刻・内容を記録する
  2. 管理者へ即報告する。判断を現場に委ねない
  3. サービス側の履歴削除とアカウント停止を行う
  4. 個人情報保護委員会へ速報を出す
  5. 本人と家族へ通知し、経緯と対応を説明する
ここは間違えやすい

注意。焦って入力履歴やログを先に消すと、漏れた範囲が確定できず確報が書けなくなる。消すのは範囲を確定してからだ。

よくある質問#

個人名を消せば無料のAIに貼ってもよいですか。

事業所が契約していないサービスは、名前を消しても勧められません。年齢・性別・居室・疾患を重ねると照合で特定できてしまい、匿名化が成立しないためです。入力内容の保存場所と保存期間を事業所が確認できないことも理由になります。

音声入力で記録を取るサービスもAIですか。

音声認識もAIの一種です。判断の軸は同じで、事業所として契約しているか、音声データがどこに保存されるかを確認します。介護記録ソフトに組み込まれたものは、権限管理と保存の仕組みの中で動くため相対的に安全です。

事業所が禁止していますが、自分の下書きだけならよいですか。

業務で知った情報を個人のアカウントへ入力した時点でルール違反になります。禁止が不便なら、隠れて使うのではなく法人契約の提案として管理者に上げてください。この記事のチェックリストをそのまま提案資料に使えます。

AIが書いた記録は実地指導で問題になりますか。

誰が書いたかより、記録が事実と一致し、いつでも読み出せる状態かが見られます。介護保険の運営基準では、サービス提供の記録は完結の日から2年間保存する必要があります (市町村の条例で5年としている地域もあります)。出力をそのまま確定せず、職員が確認して確定する手順を残してください。

家族から記録はAIが書いているのかと聞かれたらどう答えますか。

隠さずに答えます。文章の整理に使っていること、個人を特定できる情報は入力していないこと、最終的に職員が確認して確定していることの3点を伝えれば足ります。説明文の文例は本文に載せました。

利用者の体調についてAIに判断を聞いてもよいですか。

体調や薬に関する判断をAIに求めないでください。記録の文章を整える用途と医療的な判断はまったく別です。いつもと違う様子があれば、主治医・かかりつけ医または看護職員に確認してください。

出典#

出典・参考
  • 個人情報保護委員会・厚生労働省「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス」(令和5年3月一部改正)
  • 個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について」(令和5年6月)
  • 個人情報の保護に関する法律 第2条 (定義・要配慮個人情報)、第20条 (適正な取得)、第25条 (委託先の監督)、第26条 (漏えい等の報告)、第27条 (第三者提供の制限)、第28条 (外国にある第三者への提供)
  • 個人情報の保護に関する法律施行規則 第7条 (報告対象となる事態)
  • 総務省・経済産業省「AI事業者ガイドライン (第1.0版)」(令和6年4月)
  • 厚生労働省「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン 第6.0版」(令和5年5月)
  • 厚生労働省「指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準」(記録の整備・保存期間)

まとめ#

  • 介護記録は要配慮個人情報。使ってよいかは契約と同意の2点で決まる
  • 危険なのは、事業所が契約していない道具に個人が特定できる情報を入れる使い方だけ
  • 匿名化は名前を消すことではない。年齢・階・疾患・時期を重ねた時点で特定できる
  • 導入前は9項目を全部埋める。特に学習への利用と保存場所は書面で確認する
  • 要配慮個人情報の漏えいは1人分でも報告義務。速報は3〜5日以内
  • 体調や薬の判断はAIに求めず、主治医・かかりつけ医か看護職員へ

次の一歩は1つでよい。自分の事業所で使われているAIが、誰の名義の契約かを確認すること。名義が個人だったら、そこから止める。


この記事を書いた人:ミミ介護支援専門員(ケアマネジャー)

介護施設で生活相談員・ケアマネジャーとして勤務。現場の職員研修と介護現場でのAI活用の推進に携わっています。記事の数字・制度は一次資料の原文を開いて確認してから書いています。誤りに気づいた方はお問い合わせから教えてください。 運営者情報

この記事の「型」を、現場でそのまま使う。

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