結論から言います(本編約11,000字・例文40と変換表つき)
「記録、もっと具体的に書いて」。そう言われて直したのに、また同じことを言われた経験、ありませんか。
先に結論を言います。記録が書けないのは、文章力の問題ではありません。「見たこと」と「思ったこと」を分ける手順を、誰も教えてくれなかっただけです。手順さえ持てば、語彙が少なくても記録は通ります。
※この記事の「客観的な記録」=その場にいなかった職員が読んでも、同じ場面を頭の中で再現できる書き方のことです。
この記事では、主観と客観を分ける3つの質問、そのまま使える場面別の例文40、よく書いてしまう表現の変換表、そして法令で書き方が決まっている記録の話まで渡します。本編約11,000字。印刷して申し送りノートに挟んでおける分量です📝
「文章が下手だから」ではありません
記録が苦手だという職員の記録を、私は何百枚と読んできました。共通していたのは、語彙の少なさではありません。事実と解釈が、一文の中で混ざっていることでした。
たとえば、こういう記録です。
「不穏だったため、居室にて休んでいただいた。」
この一文には、書いた人にしか分からない情報が3つ隠れています。何を見て不穏だと判断したのか。声をかけたのか、腕を取ったのか。休んだのか、休まなかったのか。
書いた本人の頭の中では、全部つながっています。だから本人には「具体的に書いた」つもりになる。ここが、指摘されても直らない理由です。
では、何を基準に分ければいいのか。次で3つの質問を渡します。
記録には、あなたが思っている以上に読み手がいます
分け方の前に、なぜ分ける必要があるのかを押さえておきます。ここを飛ばすと、結局「怒られないための記録」に戻ってしまうからです。
介護記録の読み手は、3種類います。
1つ目は、他職種と次の勤務者です。 あなたの記録だけを頼りに、看護師は受診の要否を判断し、次の夜勤者は観察の重点を決めます。
2つ目は、行政です。 記録は介護報酬の請求根拠になります。川崎市が事業者向けに出している資料では、こう明記されています。
整備・保存が義務付けられている記録について、当該記録が保存されていない場合は、サービスを提供した事実が確認できないものとして、既に支払いを受けている介護報酬について返還していただく可能性があります。(川崎市「記録の整備・保存」)
要するに、記録がなければサービスを提供していないのと同じ扱いになる、ということです。
3つ目は、利用者本人と家族です。 介護記録は個人情報にあたり、本人からの開示の求めの対象になり得ます。厚生労働省と個人情報保護委員会が出しているガイダンスは、医療・介護関係事業者が扱う記録を明確に対象にしています。
つまり記録は、書いた人以外の全員が読む前提の文書です。「自分が分かればいい」で書けるものではないんです。
ここ、いちばん大事です。
では実際に、どう分けるか。
分け方は、たった3つの質問で足ります
書きながら迷ったときは、この3問を順に自分に投げてください。
質問1:それは、目・耳・鼻・手で確認したことですか。
見た、聞いた、触れた、においがした。ここまでが事実です。「〜のようだった」「〜と思われる」が付いたら、それは解釈です。
質問2:数字と時刻に置き換えられますか。
「たくさん」ではなく「主食8割・副食3割」。「しばらく」ではなく「約10分」。「何度も」ではなく「3回」。数字に置き換えられる言葉は、置き換えるだけで記録が変わります。
質問3:その言葉から、10人の職員が同じ絵を思い浮かべますか。
「不穏」「拒否」「頑固」「協力的」——このあたりは、人によって浮かぶ絵がまったく違います。同じ絵にならない言葉は、場面の描写に開いてください。
3問すべて通った文が、客観的な記録です。
とはいえ、ここで多くの人がつまずきます。「じゃあ思ったことは書いちゃダメなのか」と。次で、その誤解を解きます。
「主観は書くな」は、半分だけ間違いです
介護記録の研修で「主観は書かない」と教わった方は多いはずです。ですが、これを額面どおり受け取ると、記録から専門職の判断が消えます。
正確に言うと、禁止されているのは「事実として主観を書くこと」です。専門職としての解釈は、書いていい。むしろ書かないと、あなたが何を考えて動いたのかが誰にも伝わりません。
分かれ目は、順番とラベルです。
| よくある書き方 | 直した書き方 |
|---|---|
| 不穏だったため居室で休んでいただいた | 15時頃、廊下を約10分間往復。「家に帰らないと」と3回発言。声かけにて居室へ誘導、ベッドに臥床され15時30分に入眠 |
| 食事を拒否された | 昼食時、スプーンを差し出すと顔を背け、口を開かれず。主食2割・副食0割で下膳。「今日はいらない」との発言あり |
| 体調が悪そうだった | 朝食時、いつもと違い声かけへの返答が遅れる。額に発汗あり、食事は主食3割で中止。看護師へ報告し検温を依頼 |
右の書き方には、解釈も入っています。「いつもと違い」は解釈です。ですが、その前に事実が置かれているので、読んだ人は解釈の妥当性を自分で判断できます。これが専門職の記録です。
型にすると、こうなります。
【事実】→【解釈】→【対応】→【結果】
この4ブロックの順で並べるだけで、記録は驚くほど読みやすくなります。ブロックごとに改行しても構いません。
順番が分かったところで、いちばん時間のかかる部分——実際の文章を渡します。
そのまま使える例文40(場面別)
すべて「×よくある書き方 → ○直した書き方」の形にしました。固有名詞と数字だけ、自分の現場に置き換えて使ってください。
【1】食事・水分(1〜5)
1. ×食事量が少なかった
○昼食:主食3割・副食2割。10分ほどで箸が止まり、以降は促しても摂取されず。水分は200mL摂取
2. ×むせ込みあり
○昼食中、汁物摂取時に2回むせ込みあり。いずれも数秒で治まり、顔色・呼吸に変化なし。以降はとろみを付けて提供
3. ×食事介助を嫌がった
○スプーンを口元に近づけると顔を背ける動作が3回。「自分で食べる」との発言あり、自助具に変更し主食7割摂取
4. ×水分をあまり摂らない
○本日の水分摂取量750mL(目標1,200mL)。お茶は残されるが、ゼリー飲料は全量摂取された
5. ×食事中に寝てしまう
○夕食開始5分後から閉眼、声かけで開眼するが咀嚼が止まる状態を3回繰り返す。誤嚥のリスクを考え20分で中止、主食4割
【2】排泄(6〜10)
6. ×失禁あり
○6時のオムツ交換時、パッド内に中量の尿失禁を確認。皮膚の発赤なし
7. ×便が出ていない
○最終排便は3日前。本日腹部膨満感の訴えあり、腸蠕動音を確認のうえ看護師へ報告
8. ×トイレ誘導を拒否
○10時にトイレ誘導の声かけ。「今はいい」と返答され、手を振る動作あり。11時に再度声かけし、トイレにて排尿あり
9. ×何度もトイレに行く
○日中(9時〜17時)にトイレ移動が8回。うち排尿があったのは3回。本人より「出ない感じがする」との発言あり
10. ×汚染あり
○21時、ズボンと下衣に便汚染あり。全身清拭のうえ更衣。皮膚状態に発赤・表皮剥離なし
【3】入浴・清潔(11〜15)
11. ×入浴を拒否された
○入浴の声かけに「寒いから嫌だ」と返答。脱衣所の室温を確認(22℃)し、時間を1時間ずらして再度声かけ、了承され入浴
12. ×皮膚に異常あり
○入浴時、右前腕外側に約3cm大の紫斑を確認。本人に痛みの訴えなし、発生時期は不明。看護師へ報告し記録用に写真撮影の依頼
13. ×洗身を嫌がる
○洗身時、背部に触れると身体をこわばらせる反応あり。声かけをしながらゆっくり行うと反応は減少
14. ×爪が伸びていた
○入浴時、両手の爪の伸長を確認。左母指の爪に白癬様の肥厚あり、自己判断で処置せず看護師へ報告
15. ×シャワー浴で対応
○発熱(施設の基準値内だが平熱より高い)のため、看護師の判断でシャワー浴に変更。所要10分、実施中の顔色・表情に変化なし
【4】移動・移乗・転倒リスク(16〜20)
16. ×ふらつきあり
○歩行器歩行中、居室からトイレまでの約8mで左右への動揺が2回。手すりに手をつく動作あり。付き添いにて移動
17. ×転倒しそうになった
○車椅子からベッドへの移乗時、立位保持が約3秒で膝折れあり。職員が支持し転倒には至らず。同様の場面が本日2回
18. ×移乗が大変だった
○移乗時、右上肢の屈曲拘縮が強く、支持点が取りにくい状況。職員2名対応に変更し実施
19. ×勝手に立ち上がる
○食後、車椅子から立ち上がる動作が15分間で4回。いずれも「トイレ」との発言を伴う。トイレ誘導後は立ち上がりなし
20. ×歩行状態が悪い
○歩行時、右下肢の振り出しが遅く、歩幅が左右で明らかに異なる。昨日までは見られなかった様子。看護師・機能訓練指導員へ報告
【5】睡眠・夜間(21〜25)
21. ×よく眠れていた
○23時消灯後、0時・2時・4時の巡視時いずれも閉眼し呼吸規則的。体動なし
22. ×眠れていない様子
○1時の巡視時、ベッド上で座位。2時・3時も同様で、「目が覚めてしまった」との発言あり。日中の傾眠は見られず
23. ×何度もコールがあった
○夜間(22時〜6時)のナースコール7回。内訳はトイレ4回、時間の確認2回、用件不明1回
24. ×夜間に起きて歩いていた
○2時20分、居室外の廊下で立位。「トイレの場所が分からない」との発言あり、誘導しトイレにて排尿。その後入眠
25. ×寝言が多い
○夜間巡視時、閉眼したまま発語あり(内容は聞き取れず)。覚醒時に本人へ確認するも記憶なし
【6】認知症のある方の行動(26〜30)
26. ×帰宅願望あり
○16時頃、玄関前で「家に帰る」との発言が5分間に3回。荷物をまとめる動作あり。お茶を勧めながら話を聞き、20分後に居室へ戻られる
27. ×同じことを何度も聞く
○午前中、「昼ごはんはまだか」との質問が1時間で6回。その都度時間を伝えると納得される
28. ×物盗られ妄想あり
○「財布がない」との訴えが本日2回。一緒に居室内を探し、タンス2段目から発見。発見後は表情が和らぐ
29. ×他の利用者とトラブル
○14時、食堂にて他の入居者の席に着席され、声を荒げるやり取りが約1分間。職員が間に入り、それぞれ別テーブルへ誘導。双方に外傷なし
30. ×介護に抵抗があった
○オムツ交換時、両手で職員の手を押し返す動作が続く。一度中断し、5分後に別の職員が声かけしてから実施したところ、抵抗なく終了
【7】体調の変化・観察(31〜35)
31. ×熱が高かった
○10時の検温で体温が普段より高値。悪寒・咳嗽の訴えなし、食事は全量摂取。看護師へ報告し指示を仰ぐ
32. ×元気がない
○午前中、自室のベッドで臥床して過ごされる時間が長い。声かけへの返答はあるが、いつもより声量が小さい。食事量は普段の半分
33. ×呼吸が苦しそう
○14時、座位で肩を上下させる呼吸を確認。会話が途切れがちになる。ただちに看護師へ報告し、指示を受けて経過を観察
34. ×浮腫あり
○両下腿に圧痕の残る腫脹を確認。靴下のゴム跡が普段より深く残る。看護師へ報告
35. ×傷ができていた
○右肘外側に約2cm大の表皮剥離あり。発生時刻・原因は不明。看護師へ報告し、事故報告書の要否を相談
【8】家族対応・その他(36〜40)
36. ×家族が怒っていた
○面会時、ご家族より「洗濯物が届いていない」とのお申し出あり。経緯を確認し、事実関係を持ち帰る旨をお伝えして15分で終了。相談員へ引き継ぎ
37. ×家族に説明した
○面会時、ご家族へ直近1か月の食事量の変化を説明。「本人が食べたいものを優先してほしい」とのご意向を確認。ケアプラン担当へ共有
38. ×レクに参加しなかった
○午後のレクリエーションに誘うが「今日はいい」と返答。ホールの端で他の入居者の様子を見て過ごされる時間が約30分
39. ×受診に同行した
○10時から〇〇クリニックへ受診同行。医師へ、直近2週間の食事量と体重の推移、当日朝のバイタルを報告。次回受診は2週間後
40. ×様子観察とした
○本日確認した変化(食事量の低下・午前中の傾眠)を看護師へ報告。看護師の指示により、次の勤務帯で食事量と覚醒状態を継続して確認することとした
例文はここまでです。40本を眺めていると、共通点が見えてきませんか。次の項で、その共通点を1枚の表にまとめます。
変換表:この5語を見たら、書き直しのサインです
現場でよく使われるのに、記録に書くと情報がほとんど残らない言葉があります。上位5つを、変換の考え方とセットで置いておきます。
| つい書く言葉 | なぜ危ないか | 代わりに書くこと |
|---|---|---|
| 不穏 | 判断の結果だけが残り、根拠が消える | 発言・動作・時間・回数 |
| 拒否 | 断られた事実しか残らず、理由の手がかりが消える | 声かけの内容/断られた言葉/再度試みた時刻と結果 |
| 様子観察 | 何を観察するかが決まっておらず、次の人に引き継げない | 観察する項目・頻度・報告先 |
| いつもどおり | 「いつも」の中身が人によって違う | 具体的な数値・行動 |
| 〜のようだった | 事実と解釈の境目が消える | 見た事実を先に書き、解釈は「〜と考え」で続ける |
この5語を検索して自分の記録を点検すると、直すべき箇所が10分で洗い出せます。
そして、絶対に書いてはいけないこともあります。次で3つだけ挙げます。
介護職が記録に「書いてはいけない」3つ
1つ目は、診断名です。 「脱水」「肺炎」「骨折」といった病名は、医師が診断するものです。介護職が記録に書けるのは、あくまで観察した事実です。「水分摂取量が普段の半分」「腋窩の乾燥あり」までが介護職の記録で、そこから先の判断は医療職に渡します。
2つ目は、大丈夫という予測です。 「様子を見て問題なし」「経過観察で大丈夫」。こうした記述は、判断した根拠が残らないうえ、後から見ると「異変に気づきながら放置した」と読まれかねません。判断ではなく、報告した相手と時刻を書いてください。
3つ目は、人格への評価です。 「わがまま」「頑固」「協力的でない」。これらは記録に残す価値がないだけでなく、開示の対象になり得る文書に書く言葉としても不適切です。行動を書けば足ります。
ここでの原則は、シンプルです。気づく → 根拠を書く → 医療職につなぐ。 介護職の記録は、この3つで完結します。判断まで背負う必要はありません。
では、法令が「こう書け」と指定している記録は何か。次で確認します。
書き方が法令で決まっている記録が、3つあります
日々の介護記録と違い、書くべき項目が省令に明記されている記録があります。特別養護老人ホームの運営基準(指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準/平成11年厚生省令第39号)から、3つ引きます。
① 身体的拘束等の記録(第11条第5項)
指定介護老人福祉施設は、前項の身体的拘束等を行う場合には、その態様及び時間、その際の入所者の心身の状況並びに緊急やむを得ない理由を記録しなければならない。
要するに、「態様」「時間」「心身の状況」「緊急やむを得ない理由」の4点が必須項目だということです。この4つのどれかが欠けている記録は、書式として不備になります。
② 事故の記録(第35条第3項)
指定介護老人福祉施設は、前項の事故の状況及び事故に際して採った処置について記録しなければならない。
「状況」だけでなく「採った処置」まで書いて1セットです。事故報告書で処置欄が空欄のまま提出される例は多いのですが、ここは省令が明記している項目です。
③ 苦情の内容等の記録(第33条第2項)
苦情を受け付けた場合、その内容等を記録することが義務づけられています。「言われたことは記録に残さないほうがいい」という判断は、この条文と逆を向いています。
そして、日々の介護記録そのものにも根拠があります。同省令第8条第2項は、サービスを提供した際に「提供した具体的なサービスの内容等を記録しなければならない」と定めています。記録は好意でやっている作業ではなく、省令上の義務なんです。
保存期間も決まっています。同省令第37条第2項では「完結の日から二年間」。ただしここが要注意で、この基準は都道府県・市町村が条例を定める際の参酌すべき基準にあたるため、自治体の条例で5年としている例があります。川崎市は事業者向け資料で、省令2年に対し市の条例では5年と明示しています。
自分の施設の保存期間が何年か、答えられますか。運営規程に書いてあります。
制度の話が続いたので、ここで現場の話に戻します。
私が、記録を「専門性の証拠」だと思うようになった話
ここからは私自身の話です。
以前、看護師から「介護士は主体性がない」と言われて、何も返せなかったことがあります。悔しかったのですが、後から自分の記録を読み返して、返せなかった理由が分かりました。
私の記録には、判断の根拠が一行も残っていなかったんです。
「食事量少なめ」「様子観察」。これでは、何を見て、何を考えて、なぜその対応にしたのかが、誰にも伝わりません。伝わらないものは、専門性として認識されません。会議で意見を求められても、根拠がないから声が小さくなる。当たり前でした。
書き方を変えてから、変わったのは看護師の態度ではなく、私自身が自分の判断を説明できるようになったことでした。「3日前から水分摂取量が2割落ちていて、今朝は覚醒も遅かったので報告しました」と言えれば、話はそこから始まります。
記録は、後始末の作業ではありません。介護職が自分の専門性を残せる、ほとんど唯一の公式文書です。
とはいえ、時間がないのも本当のことです。次で、現実的な手順を渡します。
1件3分で書き終える手順(勤務中に回せる形)
記録に時間がかかる原因のほとんどは、「書きながら何を書くか考えている」ことです。順番を固定すると、考える時間が消えます。
手順①:まず数字と時刻だけ書く(30秒)
時刻、摂取量、回数、量。文章にせず、単語で並べます。
手順②:見たこと・聞いたことを足す(60秒)
本人の発言は「 」で囲んでそのまま書きます。要約すると情報が減ります。
手順③:自分の解釈を1行だけ足す(30秒)
「〜と考え」で始めます。ここが専門職の仕事です。
手順④:対応と結果を書く(60秒)
誰に、何時に報告したか。その後どうなったか。報告先の名前は必ず入れてください。
この順で書くと、①②が事実、③が解釈、④が対応と結果になり、放っておいても【事実】→【解釈】→【対応】→【結果】の並びになります。
- ✅ 迷ったときの最終確認:その記録を、利用者ご本人とご家族が読んでも問題ないか。 開示の対象になり得る文書である以上、これが最後の関門です。
AIを使って記録の下書きを整える方法もありますが、個人が特定できる情報を外部サービスに入力しない、という線引きが前提になります。ここは別の記事で詳しく扱います。
最後に、研修でよく出る質問をまとめておきます。
よくある質問(FAQ)
Q1. 「不穏」と書いてはいけないのですか。
A1. 禁止されているわけではありません。ただし「不穏」は判断の結果を示す言葉で、根拠が残りません。発言・動作・時間・回数を書いたうえで、「落ち着かない様子と考え」と続ける形にすると、根拠と解釈の両方が残ります。
Q2. 記録に、自分の推測を書いてもいいですか。
A2. 書いて構いません。ただし事実の後に、解釈と分かる形で書いてください。「〜と考え」「〜の可能性を考慮し」といった書き方にすると、読んだ人が妥当性を判断できます。事実と混ぜて一文にするのが問題なのであって、推測そのものが問題なのではありません。
Q3. 略語や施設独自の用語を使ってもいいですか。
A3. 施設内で定義が統一され、新人にも共有されているものに限れば使えます。ただし記録は開示の対象になり得るため、外部の人が読んで意味が取れない略語の多用は避けてください。
Q4. 事故報告書と介護記録は、両方書くのですか。
A4. 別のものとして両方必要です。省令では、事故の状況と事故に際して採った処置についての記録を整備し保存することが定められています。日々の介護記録の一行で代替できるものではありません。
Q5. 介護記録の保存期間は何年ですか。
A5. 国の省令では「完結の日から二年間」ですが、この基準は自治体が条例を定める際に参酌する基準にあたり、5年としている自治体があります(例:川崎市)。ご自身の施設の運営規程と、所在自治体の条例を確認してください。
Q6. 家族に記録を見せてほしいと言われたら、どうすればいいですか。
A6. 介護記録は個人情報にあたり、本人からの開示の求めの対象になり得ます。ただし対応の手順は施設の規程で定められているため、その場で判断せず、必ず相談員・管理者に引き継いでください。「見せられない」と即答するのも、その場で見せるのも、どちらも避けるべき対応です。
Q7. 忙しくて記録を書く時間がありません。どうすればいいですか。
A7. 現実的な対策は2つです。1つは、上に挙げた手順で「考える時間」を削ること。もう1つは、記憶に頼らず、その場でメモを残すことです。時刻と数字だけでも先に残しておけば、後からの再構成にかかる時間が半分以下になります。
Q8. 記録の書き方を新人にどう教えればいいですか。
A8. 「具体的に書いて」では伝わりません。この記事の3つの質問(五感で確認したか/数字にできるか/10人が同じ絵を浮かべるか)を渡し、実際の記録を一緒に添削するのが最短です。教える側の型がないと、指導は必ず属人的になります。
要点サマリー
- 記録が書けないのは文章力の問題ではなく、事実と解釈を分ける手順を知らないだけです
- 分け方は3問(五感で確認したか/数字にできるか/10人が同じ絵を浮かべるか)で足ります
- 主観を書くなという指導は不正確です。【事実】→【解釈】→【対応】→【結果】の順に並べれば、解釈は書いていいものです
- 診断名・「大丈夫」という予測・人格評価の3つは書きません。着地は「気づく→根拠を書く→医療職につなぐ」です
- 身体的拘束・事故・苦情の記録は、省令が書くべき項目を指定しています。保存期間は省令2年、条例で5年としている自治体があります
あわせて読みたい
- 看取り介護加算とは?単位数・要件・「同意が間に合わない」現場の不安まで整理:記録と同意のプロセスが制度上どう評価されているかを解説しています。
- 無料note『介護士の専門性とは何か』:記録に根拠を残すことが、なぜ専門性の話に直結するのかを法令から整理しました。
この先を実務に落とし込みたい方へ
この記事で扱ったのは「書き方」までです。そもそも何を観察して記録に残すのか——その観察の中身は、有料note『バイタル・急変予兆の観察と初動』(¥980)にまとめてあります。数値の前に見るべきサイン、報告までの言葉の型、そのまま使えるチェックリストを収録しています。記録の質は、観察の質を超えません。
介護の制度と実務をエビデンスで整理する記事は、note「エビデンスで殴るAI介護士」で継続的に発信しています。
出典(一次ソース)
- 指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準(平成11年3月31日厚生省令第39号)第8条第2項(サービスの提供の記録)/第11条第5項(身体的拘束等の記録)/第33条第2項(苦情の内容等の記録)/第35条第3項(事故の記録)/第37条第2項(記録の整備・完結の日から二年間保存):厚生労働省法令等データベース https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=82999406&dataType=0&pageNo=1
- 条例で保存期間を5年としている例、記録がない場合の介護報酬返還の可能性、保存期間の起算日:川崎市「記録の整備・保存」 https://www.city.kawasaki.jp/350/cmsfiles/contents/0000105/105693/kirokunoseibi_hozon.pdf
- 介護関係記録が個人情報にあたり、開示の求めの対象になり得ること:個人情報保護委員会・厚生労働省「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス」 https://www.ppc.go.jp/personalinfo/legal/iryoukaigo_guidance/
- 介護福祉士の業務に「介護に関する指導を行うこと」が含まれること:社会福祉士及び介護福祉士法(昭和62年法律第30号)第2条第2項 https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=82021000&dataType=0&pageNo=1
※本記事の法令・基準は特別養護老人ホーム(指定介護老人福祉施設)の運営基準に基づいています。他のサービス種別では条番号・整備すべき記録の範囲が異なります。また保存期間や運用は自治体の条例・解釈通知で異なるため、必ず所在自治体の基準をご確認ください。
執筆:現役の施設ケアマネジャー兼生活相談員。特別養護老人ホーム等でケアプラン作成・モニタリング・記録の点検と職員研修に携わる立場から、現場目線で実務を解説しています。制度・法令の記述は公的資料に基づき、本文末に出典を明記します。